ノーベル賞受賞者と地中熱システムの縁――。2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山梨大学特別栄誉博士の大村智さんの功績を称える『大村智記念学術館』が2018年7月19日に山梨大学武田キャンパス内に完成しましたが、最新式の地中熱ヒートポンプシステムが導入された点でも注目されます。『大村智記念学術館』に導入されたシステムはどのようなものなのでしょうか。早速取材してきました。(エコビジネスライター・名古屋悟)
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◆山梨大・武田教授が研究開発する高効率な最新式の地中熱ヒートポンプシステム
『大村智記念学術館』は武田キャンパス正門入り口入ってすぐ、右手に建っています。印象的な外観が目を引きますが、これは山梨大学の前身となる「甲府学問所徽典館」の明治期の建物の特徴である八角三層を模してデザインしたものです。大村氏が研究で使った機材やノーベル賞に関する資料などを展示し、一般の人も見学できる施設になっています。
この『大村智記念学術館』に最新式の地中熱ヒートポンプ空調システムが導入されました。
システムはS造2階建ての1階に設けられた大村博士展示スペース(約115.5㎡)の空調用に導入されています。このスペースをヒートポンプ(冷房能力6.8kW、暖房能力9.0kW、販社:ホームエネシス)2台で冷暖房を行っています。
熱交換に必要な熱源は、建屋東側に設置した深さ30mの熱交換用の井戸(ボアホール)6本。ヒートポンプ1台あたり3本のボアホールを使用しています。
ポイントは、山梨大学大学院の武田哲明教授(山梨県地中熱利用推進協議会会長)らが開発を進めている『直接膨張方式地中熱ヒートポンプシステム』を導入した点です。これが「最新式」と言われるシステムです。
通称『直膨式』と呼ばれるヒートポンプは、ヒートポンプの冷媒を直接地中に循環させて採熱する方式で、ボアホール内に冷媒循環の銅管を配置し、凝縮・膨張のサイクルを行うものです。
従来地中熱利用で使われているヒートポンプは、地中で採熱する側はポリエチレン製パイプ内に水または不凍液を循環させて汲み上げた熱をヒートポンプ内で冷媒と熱交換させて室内側の空調に利用する『間接方式』が広く普及していますが、今回採用された『直膨式』は冷媒が室内側と地中側を銅管を通じて直接循環する仕組みになっています。
『直膨式』の研究開発を進めている武田教授によると、『直膨式』は直接冷媒が室内側と地中側を循環することから熱交換ロスが最小化され、熱交換効率がとても高いので、熱交換に必要な井戸の深さを大幅に浅くできるほか、構造がシンプルで循環ポンプや配管継手工事が不要となり、また一般的に普及しているヒ-トポンプ量産機(エアコンの室外機)を利用できることなどから導入コスト等を大幅に低減することが可能だとしています。
◆運転コストはエアコン(空気熱源)の30%程度!
さらに、運転コストについても期待は大きく、ヒートポンプの性能は消費電力1 kWあたりの冷却・加熱能力を表するCOP(成績係数)で表しますが、実際の運転で通常のエアコン(空気熱)がCOP3~4、従来式の地中熱ヒートポンプがCOP4~6なのに対し、『直膨式』は冷房運転でCOP10~12、暖房運転でもCOP6~7となるとしています。これにより、運転コストは空気熱の30%程度まで大幅に低減できるとしています。
◆8月7日には山梨県・山梨大学共催の「地中熱利用普及セミナー」で「大村智記念学術館」地中熱ヒートポンプシステムを公開!
山梨県と山梨大学は8月7日にこの『大村智記念学術館』で「平成30年度第1回地中熱利用普及セミナー」(後援:山梨県地中熱利用推進協議会)を開催し、この最新式地中熱ヒートポンプシステムの見学会も行いましたが、関連企業・自治体や教職員・学生等約120名の参加者が集まり、高効率な地中熱ヒートポンプシステムに関心を寄せました。
◆山梨県は2030年に「地中熱ヒートポンプシステム」900台導入目標
山梨県では、2016年3月に「やまなしエネルギービジョン」を策定し、今後の県内における再生可能エネルギーの導入目標等を掲げましたが、地中熱ヒートポンプについて2030年に目標導入台数900台という意欲的な数を盛り込んでいます。
こうした数値目標は全国の都道府県に先駆けたもので、全国的にも関心を集めています。山梨県では地中熱利用の普及を目指している民間団体・山梨県地中熱利用推進協議会が精力的に普及活動を展開していますが、山梨県内での地中熱導入施設のシンボルともなる『大村智記念学術館』の最新式地中熱ヒートポンプシステムが、県の目標達成に向けた大きな後押しになりそうです。
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