◆NEDO事業で「帯水層蓄熱を中心とした面的熱利用によるZEB及びZEH-Mの運用に係わる技術開発」◆
2023年度までに「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」により積雪寒冷地における『ZEB』(ネット・ゼロ・エネルギービル)を実現した日本地下水開発株式会社(山形市松原777、桂木聖彦社長:企業名略称JGD)は、システムのさらなる進化を目指し、高効率帯水層蓄熱システムをベースとした面的熱利用システムの開発に着手。JGDが確立した「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」と、それを応用する形で開発される面的利用システムとはどのようなものか。帯水層蓄熱の開発からさらなる高効率化システムの開発、それをさらに高度利用する面的利用システムの確立を目指すJGDの取り組みを紹介します。(エコビジネスライター・名古屋悟)
◆帯水層を蓄熱槽として利用する帯水層蓄熱◆
JGDは、積雪寒冷地である山形県に所在しています。1970年代から地下水の熱利用を研究開発、実用化してきた同社は、その経験を生かし、冬期の降積雪により『ZEB』が難しいと言われている積雪寒冷地での『ZEB』実現を目標に、地下水が貯留されている帯水層を利用する技術開発に取り組んできました。
JGDが着目したのは、「帯水層蓄熱システム」です。地下に広がる帯水層に蓄熱して建物の冷房・暖房を効率的に行う技術で、夏期の冷房で出る温熱を蓄えた帯水層の地下水を冬期の暖房熱源に、冬期の暖房で出る冷熱を蓄えた帯水層の地下水を夏期の冷房熱源に利用することで、冷暖房の効率化を図れるものです。
◆積雪寒冷地での『ZEB』達成に寄与した「高効率帯水層蓄熱システム」◆
この「帯水層蓄熱システム」を高度に生かす「高効率帯水層蓄熱システム」の開発を目指し、2014年度~2018年度にかけて国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「再生可能エネルギー熱利用技術開発」により、技術を確立しました。
「高効率帯水層蓄熱システム」は、2本の井戸を冬期と夏期で交互に利用し、地下水の流れの遅い地下帯水層に冬期の冷熱、夏期の温熱をそれぞれ蓄える仕組みです。
冷房利用で温度が上昇した地下水をさらに太陽熱で加温し、より高温となった温熱を冬期の暖房用井戸周辺の地下帯水層に蓄え、冬期はその温かい地下水を暖房用に利用します。一方、暖房で利用して温度が低下した地下水をさらに融雪の熱源としても利用し、より低温となった冷熱を夏期の冷房用井戸周辺の帯水層に蓄え、夏期に冷房で利用します。
このシステムをJGD関連会社の事務所で空調に導入した結果、JGDの従来型帯水層蓄熱システム(3本の井戸を冷暖房の熱源として利用するシステム)に比べて初期導入コスト21%削減、年間運用コスト31%削減を実現しました。
さらに、この技術開発では、熱利用後に地下に戻すのが難しかった地下水を全量還元できる井戸構築技術も確立しています。
◆冷暖房・給湯・冬期の無散水融雪の3つの熱需要を満たすトータル熱供給システム◆
「高効率帯水層蓄熱システム」を確立したJGDは、「高効率帯水層蓄熱システム」のさらなる高度利用を目標に、2019年度から2023年度にかけてNEDO事業「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」において、「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」の開発を進めました。
この研究開発では、「高効率帯水層蓄熱システム」を柱に、太陽光発電設備(30.7kW)、断熱効果を高めた外壁(厚さ300mm)、給湯回路に真空管式太陽熱温水器(84本)、換気装置に全熱交換システム、照明にLED照明、南西側の窓に太陽輻射熱を最大82%遮断する外付ブラインドを組み合わせ、関連会社である日本環境科学株式会社(山形市高木6:企業名略称JESC)ZEB棟で実証試験を行いました。
このシステムの大きな特徴は、「冷暖房」・「給湯」・「冬期の無散水融雪」の計3つの熱需要に対応する点です。
この3つの需要を満たすため、「再生可能エネルギー熱利用技術開発」で開発した冷暖房専用ヒートポンプに給湯回路を付加したヒートポンプ(冷房能力30kW、暖房能力30.1kW、給湯能力30.2kW)をゼネラルヒートポンプ工業株式会社と共同で開発しています。
実証が行われたJESC-ZEB棟は、鉄骨造の地上2階建、建築面積285㎡、延床面積562.5㎡の建物で、2021年2月から2023年10月までの期間でデータを収集。その結果、各年度の冬期運転と夏期運転のトータルエネルギー収支は、削減したエネルギー量が消費電力量を上回る結果となり、全期間を通じて『ZEB』を達成しました。
帯水層蓄熱のメリットをJGDの桂木聖彦社長に聞くと、「需要側に有利な温度の地下水揚水が可能な点です」と言います。例えば2021年度のデータによると、地下水初期温度は16℃ですが、冷房開始時は事前の冷熱蓄熱でより冷たい13.5℃、暖房開始時は事前の温熱蓄熱でより温かい22.8℃の地下水が得られています。熱はその後、蓄熱の消費(揚水量の累積)に伴って初期温度に向けて徐々に収束していきますが、冷熱が必要な期間、温熱が必要な期間を通じて条件の良い熱が得られ、エネルギー消費の削減に大きく寄与していることが分かります。
◆エネルギー消費をさらに削減する工夫…夏期のフリークーリング、冬期用に太陽熱蓄熱など◆
『ZEB』達成の大きなポイントについて聞くと、「夏期の冷房でヒートポンプを使わず地下水の冷熱だけで冷房するフリークーリングを行っていることに加え、給湯用に導入した真空管式太陽熱温水器で集めた熱を利用すること、通常は冬期に融雪で利用する無散水融雪システムを夏にも運転させて集めた温熱を冬期に暖房で使う井戸周辺の帯水層に貯めておくことです」としています。
例えば、フリークーリングの効果は大きく、フリークーリングとヒートポンプ冷房をそれぞれ実施した2023年度夏の結果を見ると、フリークーリングのシステムCOP(SCOP)が23.00だったのに対して、ヒートポンプ冷房のSCOPは8.74となっており、エネルギー消費量削減効果の高さがうかがえます。
◆ZEB改修の事務所とZEH-M化目指す社員寮で面的利用を実証へ◆
同社は、これらの研究成果をさらに進化させるべく、今注目されている熱の面的利用への応用に乗り出し、NEDOが2024年度から28年度にかけて実施する「再生可能エネルギー熱の面的利用システム構築に向けた技術開発」において、複数の熱需要に対して面的に熱供給する高効率帯水層蓄熱システムに関する研究開発「帯水層蓄熱を中心とした面的熱利用によるZEB及びZEH-Mの運用に係わる技術開発」(ゼネラルヒートポンプ工業と共同提案)をスタートしています。
高効率帯水層蓄熱システムを中心とした再エネ熱をZEBならびにZEH-Mといった複数施設で利用する面的熱利用システムの熱源とし、熱負荷の平準化、熱融通、熱利用を高度化することで、最終年度の2028年度に再エネ熱利用システムの導入コストを年度比で25%削減、ランニングコストを25%削減することを目標としています。
実証は、建て替え予定でZEH-Mを目指す社員寮(木造2階建て約600㎡:1K15部屋)とZEB改修予定の山形事務所(鉄骨平屋建て約200㎡)の2棟で行う計画です。
共通の帯水層蓄熱システムを2棟で利用する形で行う予定で、「高効率帯水層蓄熱システム」をベースに、太陽光発電設備、断熱効果を高めた外壁、給湯回路に真空管式太陽熱温水器などを導入する予定としています。
社員寮は社員が仕事から戻る夜から朝、山形事務所は社員が出社している日中に電気や熱の需要が集中するため、熱需要の分散が期待できますが、これまでの実証と異なるのは社員寮に風呂等が設置される点です。暖房用帯水層に夏期に温熱を蓄えるものの特に冬期に温熱需要が高くなることが予想されることから「給湯負荷がどの程度になるかが今後の設計のポイントになります」と述べ、太陽熱による補助等をポイントに挙げています。
社員寮は15部屋ありますが、このうち5部屋は高効率帯水層蓄熱システムによるヒートポンプ給湯、5部屋は空気熱源を利用するエコキュート、5部屋はガス給湯とし、比較試験を行う予定としており、この比較結果も注目されます。
研究開発項目は「集合住宅ZEH-M建築」、「既存事務所ZEB化」、「面的利用システム構築とモニタリング」、「フリークーリングによる高効率化」、「太陽熱集熱器による高効率化」、「給湯専用小型ヒートポンプの開発」、「スケール付着判別の自動化手法の開発」の7項目が研究開発項目として設定されています。
2024年内に社員寮の基本設計を終えたほか、高効率帯水層蓄熱用の熱源井戸の掘削工事もこれまでに完了させ熱源井戸の揚水・注入試験を終え、連続揚水後の地下水位回復等も確認しています。
今後社員寮の新築工事と山形事務所のZEB化工事が本格化し、社員寮は2026年度半ば竣工、事務所のZEB化も2025年度内にも終える予定になっています。
◆「ZEBプランナー」でもあるJGD◆
「ZEBプランナー」にも登録されているJGDでは、「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」の今後の普及拡大に向け、「東北地方を中心とした積雪寒冷地域を重点エリアとし、ZEB仕様建物の設計事務所や再生可能エネルギー熱の導入に積極的な設計者、環境意識が高い施主や設計者、CO2排出量削減意識が高い施主や設計者などを対象に広めていきたいと思っています」とし、対象施設については「建物面積500㎡~1,500㎡規模の建物で、特に24時間空調が必要な老健施設や診療所、庁舎や消防署等の防災拠点などが主な対象になると見込んでいます」述べており、今後の展開が注目されます。
なお、JGDではこれまでに公共・民間含め11施設に帯水層蓄熱システム(うち2施設が高効率帯水層蓄熱システム)を納入し、帯水層蓄熱システムによるエネルギー消費削減に貢献しています。
◆高い評価を受ける高効率帯水層蓄熱システム◆
JGDの高効率帯水層蓄熱システムの開発等は高く評価されており、2020度に経済産業省東北経済産業局の「再生可能エネルギー利活用大賞最優秀賞」、「気候変動アクション環境大臣表彰」を受賞したのに続き、2021年度には「新エネ大賞経済産業大臣賞[導入活動部門]」、山形県産業賞を、2024年度には「山新3P賞繁栄賞(山形新聞,山形放送)」などを受賞しています。
2024年度からNEDO事業で研究開発を進めている「 帯水層蓄熱を中心とした面的熱利用によるZEB及びZEH-Mの運用に係る技術開発」については、2025年7月17日に開かれた「NEDO再生可能エネルギー分野成果報告会2025」において経過等が発表されています。
※記事中の図は、日本地下水開発株式会社提供
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