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地域の防災力と環境負荷低減を同時に高める取り組みとして、山梨県甲斐市では2025年度に避難場所としての指定された市立の小学校体育館3校に、「災害用井戸×地中熱利用型空調システム」の導入を行いました。本件では、単なる空調設備新設ではなく、災害対応井戸を主として日常利用と巧みに結びつけた先進的モデルとして、今回ご紹介します。(株式会社ハギ・ボー環境事業部部長・中澤俊也)

◆井戸を災害時専用にせず日常空調熱源として利用◆

甲斐市では、災害時に圧倒的に不足する生活用水を避難所となる施設で確保するため、井戸の設置を検討し、その井戸水を同時期に計画していた屋内運動場の空調設備に利用することを考えました。空調システムは、水冷式ヒートポンプを用いたビルマルチタイプで、その熱源として、災害時にも給水可能な井戸を利用することとしました。

体育館全体の空調負荷を井戸水だけで賄おうとすると、必要な揚水量が膨大になり現実的ではありません。そこで、災害時の想定給水量(200~250L/分)を規準に先ず水冷ヒートポンプ能力を設定し、残りの負荷を空冷ヒートポンプエアコンで補完するハイブリッド方式を採用しました。これによって環境性・経済性・防災性のバランスを最適化することができました。

最大のポイントは、井戸を「災害時専用」にしなかったことです。非常用設備は、使われない期間が長いほど劣化や故障のリスクが高まります。今回のシステムでは、日常的に空調の熱源として井戸水を利用することで、揚水設備の稼働状況を常に把握でき、維持管理が自然と行われる仕組みになっています。いざという時に確実に機能する“生きた防災設備”としての価値が生まれました。

さらに、井戸を空調に活用することで、設置費用の費用対効果が大きく向上した点も見逃せません。災害用井戸は単体では投資回収が難しい設備ですが、空調の熱源として日常利用することで、環境負荷の低減と運用コストの抑制に寄与し、導入の合理性が高まりました。

◆甲斐市立竜王北小学校の設備概要◆

3校のうちの1校「甲斐市立竜王北小学校」の具体的な設備内容を以下に記します。

【空調対象床面積】メインアリーナ 980㎡ 、ステージ90㎡

【空調設備】

〇空冷方式シングルタイプヒートポンプ 10hp×6 (室内機・ 10馬力×6)

〇水冷ビルマルチタイプヒートポンプ 18hp×1 (室内機・8馬力×3)

〇空調用搬送ファン : 12台 風量 1970㎥/時(気流の到達距離及び、体感温度の向上のため)

【井戸設備】

〇口径150㎜、深度180m、井戸ポンプ11.0kW

◆県内外から視察も多数◆

近年の猛暑を背景に、文部科学省は学校体育館への空調設置を補助金で後押ししています。今回の取り組みは、この国の方針とも整合させながら、地域の防災力を高める独自の価値を付加した点で、他自治体にも広く参考となるモデルケースとなり得ます。今年5月には「にいがた災害用井戸普及協会」様や、県内の都留市が視察にみえられました。甲斐市では、災害用井戸の配置計画との協調を図りながら、システムの運用実績を検証していくとのことでした。

「環境技術と防災の融合」。その実践例として、この地中熱利用システムは、持続可能な地域づくりの新たな方向性を示しています。

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◆規制緩和の肝は“地下水の還元”… 全量還元できる井戸構築技術を確立済み◆

「広報『地中熱』」2026夏特集では、地下水の熱利用を促進するため揚水規制がかかる地域でも地下水を揚水して熱利用しやすくする国の規制緩和(ビル用水法施行規則の一部を改正する省令)や、道路行政においても脱炭素化を目指す国土交通省の改正道路法に基づく「道路脱炭素化推進計画」でも地中熱利用に注目が集まっていることを紹介しています。この2つの流れは今後、地中熱利用の普及拡大に向けたポイントとなりそうですが、高効率帯水層蓄熱利用システムの開発等に注力している日本地下水開発株式会社(山形市松原、桂木聖彦代表取締役:社名略称JGD)の取り組みは、規制緩和など国の動きに対応する技術を備えており、今後さらに注目を集めそうです。JGDの桂木聖彦代表取締役を取材しました。(エコビジネスライター・名古屋悟)

◆高効率帯水層蓄熱システム開発の過程で全量還元技術も確立◆

2026年7月17日に公布された「ビル用水法施行規則の一部を改正する省令」(2027年9月1日施行予定)は、揚水規制があってこれまで地下水の熱利用ができなかった地域でも地下水の熱利用が可能になるという点で大きな可能性を秘めていますが、一方で熱利用した後の地下水を同一帯水層に全量還元しなければならないという点が非常に重要な点になります。

土圧や地下水圧がかかっている帯水層に地下水を戻すということは、想像しているよりもはるかに難しいものです。

ここで注目したいのが、地下水熱利用のパイオニアであるJGDの「高効率帯水層蓄熱システム」の技術開発です。

このシステムは、JGDが新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業「再生可能エネルギー熱利用技術開発」(2014~2018年度)で確立した国内初のシステムで、2本の井戸を冬期と夏期で交互に利用し、地下水の流れの遅い地下帯水層に冬期の冷熱、夏期の温熱をそれぞれ蓄える仕組みです。

冷房利用で温められた地下水をさらに太陽熱で加温し、より高温となった温熱を冬期の暖房用井戸周辺の地下帯水層に蓄え、冬期はその温かい地下水を暖房用に利用。一方、暖房で利用して冷えた地下水をさらに融雪の熱源としても利用し、より低温となった冷熱を夏期の冷房用井戸周辺の帯水層に蓄え、夏期に冷房で利用します。

このシステムを同社関連会社の事務所で空調に導入した結果、JGDの従来の帯水層蓄熱システム(3本の井戸を冷暖房の熱源として利用するシステム)と比較して初期導入コストの21%削減と年間運用コストの31%削減を達成しています。

そして注目すべきは、熱を利用した後に地下に戻すのが難しかった地下水を全量還元できる井戸構築技術もこの実証事業で確立している点です。

JGDの桂木聖彦代表取締役は、ビル用水法施行規則の一部を改正する省令の施行を機に「揚水規制の緩和が進むことで、これまで地下水の熱利用が難しかった首都圏等でも導入が可能になりますので、積極的に展開していきたいと考えています」と述べる一方、「当社は実証事業を通じて全量還元できる井戸構築技術を確立していますが、全量還元させるには地域の地層の違い等を把握する必要があり、地域の特性を踏まえた工夫が必要です。今後、揚水規制緩和が進んだ際には全量還元を実現するためのノウハウを生かして取り組んでいきたいと思います」と話し、現在、揚水規制がかかっている地域で全量還元が可能かどうかの実証の必要性等にも言及しています。

山形市に本社を置く同社ではこれまで帯水層蓄熱利用システム関係の顧客の多くが地元・山形県を中心とした東北地方ですが、揚水規制が緩和後は揚水規制によって地下水の熱利用ができなかった地域でも積極的に展開していきたい考えとしています。

◆高効率帯水層蓄熱システムは積雪寒冷地でのZEB実現の柱にも◆

なお、JGDでは、この「高効率帯水層蓄熱システム」を発展させ、冬期の積雪により『ZEB』が難しいと言われている積雪寒冷地域で『ZEB』も実現しています。

これは、2019年度から20243年度にかけて実施したNEDO助成事業「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」による「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」の実証です。

この研究開発では、事務所に「高効率帯水層蓄熱システム」を設置したほか、太陽光発電設備(30・7kW)、断熱効果を高めた外壁(厚さ300mm)、給湯回路に真空管式太陽熱温水器(84本)、換気装置に全熱交換システム、照明にLED照明、南西側の窓に太陽輻射熱を最大82%遮断する外付ブラインドを追加設置して『ZEB』を目指しました。

JGDの関連会社である日本環境科学株式会社(山形市高木:JESC)ZEB棟で実証試験が行われ、「冷暖房」・「給湯」・「冬期の無散水融雪」の計3つの熱需要に対応し、ゼネラルヒートポンプ工業と共同開発したヒートポンプ(冷房能力30kW、暖房能力30・1kW、給湯能力30・2kW:以下、HP)を使用しています。

JESC-ZEB棟では、2021年2月からデータを収集。その結果、2021年度から2025年度の年間トータルエネルギー収支は、削減したエネルギー量が消費電力量を上回る結果となり、5年間の全年度を通じて運用上でも『ZEB』を達成しています。

JGDはさらに進化を図るべく、新たにNEDOの「再生可能エネルギー熱の面的利用システム構築に向けた技術開発」(2024年度から2028年度)において複数の熱需要に対して面的に熱供給する高効率帯水層蓄熱システムに関する研究開発「帯水層蓄熱を中心とした面的熱利用によるZEB及びZEH-Mの運用に係わる技術開発」(ゼネラルヒートポンプ工業と共同提案)をスタートしています。

高効率帯水層蓄熱システムを中心とした再エネ熱をZEBならびにZEH-Mといった複数施設で利用する面的熱利用システムの熱源とし、熱負荷の平準化、熱融通、熱利用を高度化することで、2028年度に再エネ熱利用システムの導入コストを2024年度比で25%削減、ランニングコストを25%削減することを目標としているとしています。本社近くの山形事務所と社員寮を舞台に今後検証が進められる予定で、こちらの成果も注目されています。

◆帯水層蓄熱利用システムはこれまでに「出雲ICHIGO縁」など11施設に◆

JGDによる帯水層蓄熱システムは公共・民間含めこれまでに11施設で導入されています。「広報『地中熱』」でも紹介した「出雲ICHIGO縁」(島根県出雲市大社町北荒木1521-4:2026年1月開園)(https://geovalue-plus.themedia.jp/posts/58676238 )などで導入されています。

◆高効率帯水層蓄熱システム導入の「川西まちなかテラス」が5月2日にオープン◆

11施設のうち2施設が高効率帯水層蓄熱システムを導入しており、2026年5月2日にオープンした山形県川西町の「川西まちなかテラス」は、「高効率帯水層蓄熱システム」を導入した施設になっています。

「川西まちなかテラス」の設備は、環境省地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共施設への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業(2/3補助)で整備されたもので、空調面積252.5㎡(ホワイエ部)に対して、高効率帯水層蓄熱システム井戸100m×2本と太陽熱集熱115㎡の組み合わせで、冷暖房(暖房能力35.2kW、冷房能力31.9kW)を賄う計画になっています。

「川西まちなかテラス」の整備進捗状況は以下のURLを参照してください。

https://www.town.kawanishi.yamagata.jp/machinojoho/seisaku/2025-0116-1416-61.html

◆道路脱炭素化で注目される無散水融雪システム◆

もう1つ関心を集めているのは、道路法に基づく「道路脱炭素化推進計画」の動きです。

同法改正から1年を迎えた国土交通省がこのほどまとめた同法に基づく「道路脱炭素化推進計画」の策定状況では、東北地方整備局などがまとめた計画に地下水熱を利用した消融雪システムが盛り込まれ、注目を集めていますが、地下水熱を利用した消融雪システムはまさにJGDの柱の1つです。

遡ること1968年に本社構内に地下水還元型融雪システム(無散水融雪システム)の実験施設を設置したことからJGDの「無散水式融雪システム」はスタートしています。

JGDのシステムは、くみ上げた地下水を路面等に直接散布せず路面下に敷設した配管の中を通して熱だけ利用した後に地下還元するものであることから、貴重な地下水資源の保全と融雪を両立させます。

2026年3月末現在、実に東京ドーム(46,755㎡)約38個分以上の面積となる総施工面積177.4万㎡で施工され、雪国における車道、歩道での冬期間の移動を助けるシステムとして大きな役割を果たしています。

地域を見ると、地元・山形県をはじめ秋田県、福島県、長野県など1道1府19県で施工実績があります。

道路のほかにもドクターヘリの拠点になっている山形県立中央病院のヘリポートにも地下水還元型無散水融雪システムが導入され、冬期の緊急医療を支えています。

また、蔵王温泉郷では、温泉排湯を利用した無散水融雪設備が導入され、冬期でも温泉街の道路を安全に移動することを実現しています。

道路においても脱炭素化が求められる中、同社の無散水融雪システムは今後ますます活躍の場を広げそうです。

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◆改正道路法施行から1年で国土交通省が各道路事業者の計画策定状況まとめ◆

地中熱利用を考える上で興味深い取り組みが国土交通省でも進んでいます。

改正から1年を迎えた道路法改正から1年を迎えた中、国土交通省はこのほど、同改正法に基づき全ての地方整備局等や高速道路会社において「道路脱炭素化推進計画」が策定されたことを明らかにしました。

ペロブスカイト太陽電池など先進技術の現場実装を通じて、道路分野の脱炭素化を一層推進するとしていますが、積雪地域の例では地下水熱や地中熱を活用した融雪の事例等も大きくクローズアップしています。

◆東北地方整備局が盛り込む「地下水熱」による道路融雪◆

「地下水熱の利用」は、東北地方整備局の道路脱炭素化計画(https://www.thr.mlit.go.jp/road/datsutanso/02.pdf)に盛り込まれています。

同局の計画によると、道路設備・施設における電力使用に占める再生可能エネルギーの割合を2030年度までに30%、2040年度までに80%を目標とするとし、地下水熱等を利用した消融雪、小水力発電や小型の風力発電の導入など東北の自然を生かした自然エネルギーを用いて道路管理に必要な電力確保を検討するとしています。

地下水熱の事例として、舗装地下の管に地下水を送ることで温度差により融雪を示し、融雪における電力消費によるCO2排出が約9割削減しているとしています。

◆北陸地方整備局が盛り込む「地中熱」による道路融雪◆

「地中熱の利用」は、北陸地方整備局の道路脱炭素化計画(https://www.hrr.mlit.go.jp/road/pdf/hrr_decarbonization.pdf)に盛り込まれています。

同局の計画によると、道路管理者が使用する電力等の一部を雪エネルギーや地中熱などの再生可能エネルギーで賄うことにより、CO2削減を図るとし、各種施設の新設や更新などのタイミングにおいて、活用を検討していくとしています。

地中熱の使用事例については、集めた地中熱を活用して舗装を暖めて融雪することで融雪における電力消費によるCO2排出がゼロになることなどを紹介しています。

国土交通省によると、道路は国内のCO2 排出量の約18%(2022年度)を占めており、道路施策の目標設定の具体化や施策内容の拡充など取組強化が必要とし、道路分野の脱炭素化を推進するため、令和7年4月の道路法改正から1年、「道路脱炭素化基本方針」に基づき、全ての地方整備局等および高速道路会社ならびに一部の自治体において「道路脱炭素化推進計画」が策定されたとしています。

道路脱炭素化推進計画の策定状況(令和8年4月30日現在)は以下の通りです。

①地方整備局(10 ブロック 計画策定率100%)

②高速道路会社(6会社 計画策定率100%)

③都道府県(14 県)

④市町村(20 市町村)

道路脱炭素化計画等は国土交通省ホームページの以下URLを参照してください。

https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/utilization/datutannsoka/cn.html

道路:道路分野のカーボンニュートラル - 国土交通省

道路法等の改正による脱炭素の新たな枠組み道路脱炭素化基本方針(概要)(令和7年10月)道路脱炭素化基本方針(令和7年10月)地方公共団体向け道路脱炭素化推進計画策定マニュアル(ひな型)(令和7年10月)地方公共団体向け道路脱炭素化推進計画策定マニュアル(解説)(令和7年10月)道路分野の脱炭素化政策集 Ver.2.0(概要)(令和7年10月)道路分野の脱炭素化政策集 Ver.2.0(令和7年10月)※一部に数値の誤りがあったため、修正しました。(2025年10月16日更新)電気自動車等の普及に向けた道路環境整備道路インフラの省エネ化・創エネ※「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略中間とりまとめ」(令和5年9月)はこちら道路におけるカーボンニュートラル推進戦略 中間とりまとめ(概要)道路におけるカーボンニュートラル推進戦略 中間とりまとめ※「道路分野の脱炭素化政策集 Ver.1.0」(令和6年12月)はこちら道路分野の脱炭素化政策集 Ver.1.0(概要)道路分野の脱炭素化政策集 Ver.1.0※一部に誤植があったため、修正しました。(2025年1月10日更新) 「道路分野の脱炭素化」相談窓口を設置しています。道路分野の脱炭素化政策を詳しく知りたい方、一般的な制度に関すること、道路脱炭素化推進計画策定に関することについては、「道路脱炭素化ヘルプデスク」までお問い合わせください。お問い合わせに先立ち、まずは本ページに掲載している各種資料や次の「よくあるご質問(FAQ)」をご参照ください。 ・よくあるご質問(FAQ)(PDF形式)各地域における道路脱炭素化に関することについては、次の各地方整備局等の窓口へお問い合わせください。 ・道路脱炭素化相談窓口(PDF形式)道路脱炭素化ヘルプデスク  連絡先:hqt-road-cn-sodan★gxb.mlit.go.jp    ※上記アドレスの「★」を「@(半角)」に置き換えて送信ください。   ※所属・連絡先・相談内容等を記載の上、メールにてご連絡ください。   ※添付ファイルは受信できませんので、まずはメール本文に内容を記載してください。   ※お問い合わせの内容等によってはご返信に時間を要する場合がありますので、ご了承ください。

www.mlit.go.jp

◆2027年9月1日に改正省令施行:揚水規制地域でも地下水の熱利用が可能に◆

「建築物用地下水の採取の規制に関する法律施行規則の一部を改正する省令」が7月17日に公布されました。この改正省令は、地下水の熱利用促進に向けて現在、ビル用水法で用水が規制されている地域でも地下水の熱利用ができるよう規制緩和を進めるもので、2027年9月1日に施行の予定になっています。

2050年ネット・ゼロの実現に向けて地中熱の活用が期待されている一方で、地下水を揚水して熱利用するオープンループ型地中熱利用システムは、技術的基準で定められる揚水機の吐出口の断面積では業務用建築物等での空調利用に必要な揚水量を確保できないほか、一般的な揚水井の掘削深度が100メートル程度であるところ、技術的基準で定められるストレーナーの位置は最も浅くても400メートル以深に指定されており、事業の採算性の確保ができず指定地域での導入が困難な状況にあること等の課題があります。

◆地下水還元型地中熱利用システム◆

これら課題をクリアするため、「地下水還元型地中熱利用システム」のうち、地盤沈下のおそれがないものについては、全国展開に向けて必要な措置を講ずるため、建築物用地下水の採取の規制に関する法律施行規則第2条別記に定める技術的基準において、規定を新設する改正を行います。

具体的には、指定地域内において・・・

〇「帯水層からの地下水の揚水及び揚水した地下水の帯水層への還元を一体的に行うことを通じて当該地下水を冷房又は暖房の用に供すること」

〇「揚水した地下水の全量を同一の帯水層に還元する構造を有すること」

〇「当該設備の連続的な又は相当の頻度による稼働に伴う全量還元の状況を把握する措置その他の地盤沈下の防止等の観点から必要な措置が講じられていること」

以上の全項目に該当する揚水設備については、運用時に想定される揚水量、運用時に想定される揚水を行う帯水層の周辺の土質の状況等を勘案し、ストレーナーの位置及び吐出口の断面積が、当該場所及びその周辺において地下水位及び地盤高が著しく変化するおそれがないものである場合、技術的基準を満たすものとするーーとしています。

これにより、要件を満たす場合、これまで厳しい揚水規制がかかっていた東京都を含む首都圏でも熱利用のための地下水揚水が可能になります。昨今、ZEBなど高度な建築物が求められる中、熱交換効率の非常に高い地下水が使用できるようになるのは大きな一歩になりそうです。

また、この技術的基準の改正で、国家戦略特別区域制度の特例によらず当該指定地域においても地下水還元型地中熱利用システムが導入可能となるため、改正施行規則の施行に伴い、共同命令を廃止するとしています。

※記事中の図は、環境省資料より。

10周年を迎えたECO SEED&電子専門紙「Geo Value」に、地中熱普及の業界団体であるNPO法人地中熱利用促進協会の笹田政克理事長からメッセージをいただいています。

協会ニュースレターでは扱わない最新の導入事例やイベントの解説記事、異なる視点で紹介する規制動向などについて役立っているという言葉をいただいています。

地中熱利用設備の普及促進に向けて多様な情報を扱う「Geo Value」は、地中熱事業に関わる企業等に役立つ電子専門紙です。

ぜひ、ご購読いただき、自社事業に役立ててください!

※購読、試読の問い合わせは、ECO SEEDホームページ(https://ecoseedplan-japan.themedia.jp/ )の問い合わせフォームをご利用ください。

【企業概要】

  株式会社地層科学研究所

  代表者:横山 裕之

  所在地:神奈川県大和市大和東3-1-6 JMビル4F

  自社HP: https://www.geolab.jp/ 

【関係する事業分野・主な取り組み】

 地中熱利用分野において、地中熱源ヒートポンプシステムの性能予測・設計支援を行うクラウド版プログラム「Ground Club Advanced」を開発・提供しています。

【独自技術・製品など】

 クラウド環境で利用可能な地中熱システム性能予測ツール。インストール不要で、年間利用による継続的な設計検討に対応

【受注件数】導入実績あり

【対応エリア】全国

【所属団体】

 特定非営利活動法人 地中熱利用促進協会 会員

 一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター 会員

【該当分野での自社・団体の取り組みPRポイント】

 特定非営利活動法人 地中熱利用促進協会主催「第10回地中熱設計講座」において、講義内の設計ツールとして使用されました。地中熱利用設備の設計に携わる技術者の育成を目的とした講座で、実務に即した設計検討に活用されています。

【これから注力する分野】

 利用ニーズの高い施工条件への対応強化として、パイプ種類の追加など機能拡張を予定しています(年内提供予定)。より多様な設計条件に対応可能なツールとして改良を進めています。

【ツールの使用例】

 地中熱交換の設計条件に応じた性能予測結果を可視化

図1 地中熱ヒートポンプシステム性能予測の基本フロー(3 ステップで設定可能)

図2 性能予測プログラムのデータセット画面例(地中熱交換器や運転条件を設定)

図3 性能予測結果の表示例(運転状況や温度変化を可視化)

【事業者への一言】

 本ツールは、北海道大学大学院・長野克則教授(当時)および葛隆生教授の研究成果に基づいて開発された「地中熱ヒートポンプシステム性能予測プログラムGround Club」のクラウド版です。地中熱利用の設計検討において、初期段階から具体的な性能予測を行う際の検討や比較にご活用いただけます。 

2018年に「広報『地中熱』」で紹介した鈴廣蒲鉾本店(神奈川県小田原市風祭)の地下水熱ヒートポンプシステム」を備えたゼロ・エネルギー・ビル(ZEB:改正建築物省エネ法施行以前の規格)となる新本社屋が10年目を迎えました。10年後の今、地下水熱ヒートポンプシステムを含め、運転の状況はどうなっているのでしょうか?鈴廣蒲鉾本店経営管理チーム総務部次長の廣石仁志氏を再訪し、取材しました。【エコビジネスライター・名古屋悟(ECO SEED代表)】

◆これまで取り組んできた省エネ、創エネの集大成◆

鈴廣蒲鉾本店は、創業160年を超える国内屈指の老舗かまぼこメーカーです。

ZEBとして2015年8月に完成した新社屋は、創業150年を記念して建築された3階建て延べ床面積2,134㎡の新築の建物です。

経済産業省の「2014年度住宅・ビルの革新的省エネルギー技術導入促進事業」に採択されて省エネ、再エネ設備の導入を進めました。

「これまで取り組んできた省エネ、創エネの集大成」と位置付けた社屋には、壁や屋根を断熱構造とすることはもちろん、窓にはLow‐e複層ガラス、照明電力削減も行うため自動調光機能を備えたLED照明など省エネルギー(省エネ)設備を備えるほか、太陽光パネル(38kW)など再生可能エネルギー発電や非常時を想定した蓄電池を備えています。

そして電力消費量が最も多い空調設備に地下水を熱源とする外調機、水熱源ヒートポンプシステム、ヒートポンプ給湯器を導入し、消費電力の削減に繋げています。

◆地下水熱利用ヒートポンプシステム…熱利用後はトイレ用水などカスケード利用◆

空調や給湯器の熱源としている地下水は、年間を通じて温度が16℃程度の地下水を70mの井戸1本からくみ上げ、夏は冷房、冬は暖房に利用しています。

1、2階では部屋ごとに水熱源ヒートポンプエアコンが設けられ、オフィススペースとなる3Fは床吹き出し空調が設置されています。また、地下水は職員が利用する社員食堂の給湯熱源としても利用されています。

なお、毎分740リットルくみ上げられて熱利用される地下水は、熱利用後にトイレ用水や散水用水、景観用水など中水としてカスケード利用している点も特徴です。

食品メーカーである鈴廣蒲鉾本店が省エネ、創エネに力を注ぐ理由を改めて廣石氏に聞くと、「かまぼこ等加工食品の製造では、原料の輸送や製造の工程で、冷蔵・冷凍、解凍、加熱の工程がいくつもあります。水やエネルギーを使うからこそエネルギー問題に取り組んでいるのです」と背景を語り、「かまぼこの製造では水をたくさん使うため、以前から井戸を使っています。従来は、製造用の水資源として利用していましたが、さらなる省エネ化を図る過程で熱資源としての役割にも着目し、導入に至りました」と地下水熱ヒートポンプシステムを導入した経緯を解説します。

本社屋での取り組みは、神奈川県の「2015年度かながわ地球環境賞」を受賞するなど各方面で高い評価を受けています。

◆設備の不具合もほぼなくメンテナンスフリーで10年◆

そのシステムの運転状況について聞くと、「これらのシステムの導入による設計削減率は55.5%となっていますが、導入初年度から10年度目を迎えた状況の中、全ての年度で56%以上の削減率を維持し続けています」と廣石氏。運用開始後の3年間、2023年度には60%を超える削減率も達成しています。

直近の2年度はやや削減率が下がっていますが、「夏の猛暑などが続き、室内機の設定温度を下げたことなどが影響していますが、設計削減率は達成しています」と述べ、エネルギー消費削減効果が持続している状況を示しています。

メンテナンス性については、「今後、設備の耐用年数等による更新などが出てくると思いますが、運用開始からこれまではおかげさまでほぼノーメンテナンスと言ってもよい状況です」と述べています。蓄電池のパワーコンディショナーに一部不具合が生じたものの、水熱源ヒートポンプや井戸ポンプなどのその他設備については故障も能力低下もなく安定した運転を継続していると言います。

◆東日本大震災契機に加速した同社の省エネ、創エネの取り組み◆

鈴廣蒲鉾本店が省エネや再エネ利用に積極的なスタンスなのは、2011年3月11日の東日本大震災の経験が大きかったとしています。

エネルギーを多く使うことから従来から省エネには積極的に取り組んでいましたが、東日本大震災当時、計画停電の影響を避けるピークカットの取り組みを強化して一層の省エネを進めた結果、従来から取り組んできた省エネに加えてさらに20%のピークカットを達成。さらに、東日本大震災で被災した東京電力福島第一原子力発電所の事故から、原発に頼らない方針を固め、創エネにも取り組むことになったとしています。

最初に取り組んだのが太陽光発電で、本社近くにある風祭店や同じ敷地にある食事処「千世倭樓」の事務棟などの屋根に太陽光パネルを設置するなど再エネ利用が始まりました。

◆新本社屋だけではない地中熱(地下水熱)利用◆

再エネ熱である地中熱は、レストラン「えれんなごっそ」に地中熱換気システム(年間電力消費量20%削減を達成)を皮切りに利用を広げています。

紹介した新本社屋での地下水熱利用のほかにも2016年度には「恵水工場」でガス吸収式冷温水機の更新に合わせ、「地下水熱ヒートポンプシステム」による全館空調システムを導入。新本社屋とほぼ同じ70mの井戸を熱源に冷暖房システムが導入されています。

この「恵水工場」で熱源利用している井戸は休止していたものを再利用したもので、このような視点も持続可能性を高める上で無駄がなく、注目すべき点です。

さらに、「恵水工場」では、全館空調で熱源として利用した地下水を包装場クリーンルーム導入外気負荷処理の軽減を図るための熱源として二次利用(カスケード利用)するシステムも追加し、さらなる消費電力の削減に繋げているとしています。

団体客が昼食等で利用する施設を持つ風祭店では、井戸水を利用した太陽熱給湯システム(原水として井戸水を使用)も導入し、従来のガス利用に比べてガス使用量20%削減も実現しています。

地下水利用が身近な同社では、地下水を製造用や熱源用としての利用しているほか、景観用水、トイレ用水など多様な地下水利用を進めていますが、まだうまく活用できていない地下水もあるとし、「引き続き地下水の多様な利用を視野に取り組んでいきたいと思っています」と述べており、今後の取り組みにも注目していきたいと思います。

※記事中の写真はECO SEED撮影、図やグラフは鈴廣蒲鉾本店提供

※鈴廣蒲鉾本店ホームページは以下URL。

https://www.kamaboko.com/ 

◆山梨県起点に県内外で地中熱利用システムの設計・施工◆

◆県内外合わせて130件超の地中熱実績◆

温泉及び井戸の掘削を祖業として1961年に創業した株式会社ハギ・ボー(山梨県甲府市上今井町740-4、萩原利樹代表取締役社長:旧社名・株式会社萩原ボーリング:2020年に現社名へ変更)は、2008年から地中熱利用の事業化に向けた取り組みを開始し、2011年度の地熱利用ヒートポンプシステム導入皮切りに、地中熱利用システムの設計・施工業務を事業化しています。これまでに県内で企画/設計/施工は50件あまり、県外は地中熱交換器の掘削を主体として80件以上の施工を手掛け、甲斐の国・山梨県を起点に地中熱利用システムの設計・施工を広げています。

◆建物の空調や農業ハウスなどで省エネ、CO2排出量削減に貢献◆

創業以来60年以上にわたり、「地球環境との共存」をテーマに掲げ、水と大地に向き合い、信頼される確かな技術とサービスを地域社会に提供し、後世へと継承していくことを理念としている同社にとって温室効果ガスの大幅な削減が可能な再生可能エネルギー熱である地中熱利用システムは、井戸掘削などの豊富な経験が生かせる新たな取り組みとして事業の柱の1つとなっています。

同社が手掛けた事例では、本社屋と同じく建物の空調として自治体庁舎や病院、保育園、レクリエーション施設などがあるほか、近年では井水利用の一環として井水熱源のヒートポンプの展開に力を入れています。

※同社事例はhttps://www.hagibor.co.jp/gshp-case_study/ 

◆井戸の費用対効果向上を図る地下水の複合利用を提案◆

同社が立地する山梨県は、地下水の賦存量に恵まれた地域。同社で地中熱利用システムを手掛けて同社の萩原利樹代表取締役は「近年、オープンループ方式での施工が多く、井水はエネルギーとしての利用以外に、雑用水を始めとしてグランド/緑化散水や消防水として多目的な利用を提案させていただき、採用されています」と最近の傾向について語り、「近年では避難施設への水源としての防災井戸を普段使いいただくために空調や散水やプール用水としての使用することで、井戸の費用対効果の向上を図る提案から導入に至った案件もあります」と地下水の複合的な利用を行っているケースについても触れています。

萩原氏は、「当社のストロングポイントは長年にわたる井戸やボーリング等のバックデータを活用しながら、井戸提案を行えるところです」と述べ、導入者のベネフィットが格段に高まる同社の提案は今後さらに注目を集めるでしょう。

その一例として「ロジパーク山梨中央 B‣C街区 新築工事」があります。建物は物流倉庫として県内でも最大級の規模の施設です。

施主は労働環境改善のためにターミナルの荷捌きエリアに空調設備の導入を検討される際、環境負荷の低減とランニングコストを重要視しています。

この要望に対して、当該地の豊富な地下水を利用し、水冷式ヒートポンプに拠るビルマルチ方式の空調をスポットダクトで効率的に行っています。

熱交換後の井水は地下への還元を主としながら、緑地帯への潅水と冬期には車両登坂路への散水融雪にも利用しています。

これらに因り地下水資源の保全と井水利用の費用効果を向上させています

◆電気のピークシフトなど顧客ニーズに合ったより良い提案も◆

また、「顧客ニーズに合ったより良い提案を行っていくことも大切」とし、調理や洗浄で大量に使うお湯を沸かすため多くの電力が必要となるオール電化が進む給食センターへの提案を行った事例もあります。同社ではこの電力使用量を抑制させるため電気のピークシフトを行い、夜間電力を使うことで電気代を削減する提案等も行っています。

「地中熱利用システム単体を普及させるだけでなく、ユーザーの実情に合わせ、その他エネルギーとの組み合わせることが大切だと考えています。例えば、すべてを地中熱で賄うのではなく、初期費用や施設の稼働状況を考慮して、ユーザーが満足できるプランを提示していく事が大切だと考えています」と萩原氏は語ります。

◆高速、低騒音・低振動の掘削機で井戸工事◆

施工の面でも同社は信頼ある体制を築いています。

ロータリーバイブレーション式を採用した高速掘削機である「ソニックドリル」を3台(SD100とSD175、SD-175HB)所有しています。この掘削機は地中熱交換器の施工で高い能力を発揮します。

回転と打撃で掘削するロータリーパーカッション式に比べて騒音・振動がかなり抑えられ刃先による地盤への対応力も備えています。特に掘削速度が速く、スケジュールがタイトな建築工事においても安定した工事が可能です。最新の175HBでは200mm口径仕上げを念頭に置いて、また標準のリングビット以外のビットへの交換も可能として掘削機メーカーと検討を重ね水井戸などへの対応力を向上させています。(上の写真はソニックドリルによる工事の模様、下の写真は、SD-12.3/4”ロッド×340㎜リングビット〈中硬岩用〉)

◆井戸の多目的利用を提案し、顧客の課題解決の一助となる企業へ◆

今後の展開について萩原氏は「井戸の多目的利用として、先の防災井戸の活用や、工場などで生産設備用として既にある井戸水のエネルギー利用の提案を図るなど、お客様の課題解決の一助となる企業として邁進していきたいと思っています」と語っており、環境面だけでなく防災や事業継続性など持続可能な開発目標(SDGs)に値する同社の取り組みに今後も注目が集まりそうです。

※記事中の写真はすべて㈱ハギ・ボー提供

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◆TSKさんいん中央テレビグループが運営する中国地方最大規模のいちご狩り観光農園◆

地下水の熱利用を含むエネルギーの地産地消で自立した運営を目指す中国地方最大級のいちご狩り観光農園が、2026年1月に島根県出雲市内にオープンしました。この農園は、TSKさんいん中央テレビグループの株式会社TSK農縁(島根県松江市向島町1401、清田睦人代表取締役社長)が運営する「出雲ICHIGO縁」(出雲市大社町北荒木1521-4)です。このほど、現地を訪ね、農園の柱となる再生可能エネルギーを組み合わせた地産地消のエネルギーシステムについて取材する機会を得ました。(エコビジネスライター・名古屋悟)

◆出雲大社から2kmほどに立地する農業体験型テーマパーク◆

「出雲ICHIGO縁」は、日本最古級の神社である出雲大社の近くにオープンしたいちご狩りの観光農園。農業施設は農林水産省の農山漁村振興交付金に基づく島根県出雲市の 農山漁村発イノベーション整備事業(定住促進・交流対策型)地域活性化計画によって整備され、エネルギーシステムは環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業費補助金「地域における脱炭素化先行モデル創出事業」によって整備されました。

地域活性化計画によると、大社地域は出雲大社「平成の大遷宮」(2008年~2019年)を契機に毎年多くの観光客が訪れていますが、農業従事者の高齢化や担い手不足に加え、 古くから取り組まれていたブドウハウスの老朽化も相まって遊休農地化が加速度的に進み、農業の衰退や観光地としての景観保全が課題になっているとしています。

こうした状況を踏まえて、「遊休農地を活用したイチゴの収穫体験農園を整備したほか、関連事業として直売を含む物販・飲食施設を整備し、農業体験型テーマパークとして、市の観光施策『365日楽しめる出雲』創出事業と連携して新たな観光資源とすることで、通過型観光から滞在型観光への移行につながる多様な交流人口を創出したいと考えています」と株式会社TSK農縁の津森仁常務取締役は話します。

この施設を整備した株式会社TSK農縁は、2023年4月に設立されたTSKさんいん中央テレビグループの農業法人で、農業離れが進む中、農地の有効活用や耕作放棄地の再生、農業の担い手を増やしていくことを目的に事業を展開しています。1月にオープンした 「出雲ICHIGO縁」のほかにも、雲州人参などを栽培する八束町プロジェクトやICT管理による生キクラゲ栽培なども手掛けています。

「出雲ICHIGO縁」は、中国地方最大規模で約2haの敷地に栽培面積7,500㎡のハウス2棟があり、宙に浮く可動式空中プランターに5万株のいちごが実り、来場者を楽しませています。いちごは、「ベリーポップすず」、「よつぼし」、「スターナイト」の3品種を栽培しています。

いちご狩りのほかにもいちごやいちごを使用したスイーツを購入できるショップやテイクアウト専門のカフェなども併設し、スイーツを楽しみたい人にも魅力的な施設になっています。

◆複数再生可能エネルギーを組み合わせエネルギーの地産地消を実現◆

その農園を支えているのが再生可能エネルギーで、「エネルギーの地産地消」を掲げて多様な地域のエネルギー資源を活用している点が大きな特徴です。

地元の林業で発生する間伐材などを燃料として発電と廃熱有効活用を行う「木質バイオ マスコージェネレーションシステム」、太陽光発電パネルと太陽熱集熱による温水回収システムを一体化させた「ソーラーハイブリッドシステム」、帯水層を蓄熱層として利用する 「帯水層蓄熱ヒートポンプシステム」を施設のエネルギー供給基盤とし、電力融通・常用 防災兼用型の「定置型蓄電池システム」を含め、「電力自営線」と「熱融通導管」で構内   接続することで、多様な再生可能エネルギーの電力と冷・温熱を複合的に融通活用する 「グリーン・グリッド」を構築して最適融通制御を行うことで、自立したエネルギーシステムで運営しています。

また、この農園は「常用防災兼用」の考えで整備されている点も特徴で、「平常時の脱炭素化はもちろんですが、停電時にも電力や冷・温熱を継続利用できる設計になっており、緊急時には来場者や地域の方々の安全・安心にもつなげたいと考えています」と津森氏は施設のもう一つの特徴を解説します。

これらシステムの導入により、従来普及している重油ボイラー等に比べて温室効果ガスであるCO2を80%以上削減する目標としています。

◆システムの中核をなす木質バイオマス◆

システムを構成する再生可能エネルギーシステムのうち、各システムの柱となっている のが、「木質バイオマス・コージェネレーションシステム」(定格発電出力40kW、排熱  回収冷房能力35kW、排熱暖房能力100kW)です。

地元林業の山林管理で出る未利用の間伐材を破砕してチップ化し、木質チップから燃料 ガスを発生させてガスエンジン発電を行うとともに、発電時に排出される排気ガスの熱を利用して温水を供給するコージェネレーション(熱電併給)システムになっており、回収 した温水は吸収式冷温水器を通じて冷水や温水を作って冷暖房熱源として利用しています。

「木質バイオマスの地産地消を通じ、施設の脱炭素化を実現しながら森林・里山の維持発展にも貢献していくという考えのもと、取り組んでいます」と津森氏は話します。

◆地中のエネルギーを効率的に生かす帯水層蓄熱ヒートポンプシステム◆

「お客様が気付かないまま足下でスマートな役割を果たしているのが帯水層蓄熱ヒートポンプシステムです」と津森氏が紹介する「帯水層蓄熱ヒートポンプシステム」は、地下の帯水層を蓄熱層として活用するもので、施設の冷暖房に利用しています。

2本の井戸を冬期と夏期で交互に利用し、地下水の流れの遅い地下帯水層に冬期の暖房 運転時に生じる冷熱、夏期の冷房運転時に生じる温熱を、それぞれ蓄える仕組みになっています。

暖房時は夏期の冷房運転で温められた地下水をくみ上げて暖房熱源に利用し、冷えた地下水は冷房用の井戸に還元します。逆に、冷房時は冬期の暖房で冷えた地下水をくみ上げて 冷房熱源に利用し、温まった地下水は暖房用の井戸に還元します。こうすることで、冷暖房に必要となるエネルギーを、再生可能エネルギーで地産地消できる仕組みになっています。

くみ上げた地下水を熱源に水冷式ヒートポンプチラー(冷房能力286kW、暖房能力315kW)を介して施設の冷暖房を行っています。この水冷式ヒートポンプチラーには、低GWP冷媒が使用されており、メーカーの従来機と比べてCOP(エネルギー消費効率)が約10~20%向上しています。

冷房用の井戸は敷地北側に設置された駐車場内、暖房用の井戸は施設南側に配置され、深さは各100mで、それぞれの井戸は140m離れており、互いに熱干渉しない距離を保って整備されています。

当初は「木質バイオマスコージェネレーションシステム」と「ソーラーハイブリッドシステム」で運用する考えだったそうですが、熱需要をすべて賄うことが難しいことが分かり、現地で活用できる地産地消型の再生可能エネルギーとして、地中熱の採用を検討したそうです。

その地中熱も当初は一般的なクローズドループ(地中に埋設した密閉パイプ内に封入された流体を循環させ、地中の温度を間接的に回収する方式)を検討したものの、需要を満たすための井戸が数多く必要になることから既存のボーリングデータを参照し、地下水を熱源として利用できることが分かり、帯水層を蓄熱層として利用する方式を選定したとのことです。

◆ソーラーハイブリッドシステム◆

「ソーラーハイブリッドシステム」は、太陽光発電パネルに太陽集熱による温水回収システムを組み合わせた先進PVTパネルを採用しています。

パネルは、帯水層蓄熱ヒートポンプなどが格納されている機械室、木質バイオマスコージェネレーションシステムが格納されている施設の屋根にそれぞれ設置されています。パネルはそれぞれ100枚で発電能力60kW、採熱暖房能力160kWとなっています。発電パネル部で熱を回収してパネル温度が下がることで、発電効率を向上させながら回収した熱を給湯などに有効利用する太陽エネルギーの複合利用により、従来のパネルよりもCO2削減効果が20%向上しているとしています。

◆常用防災兼用の要となる定置型蓄電池システム◆

常用防災兼用を図る上で重要になるのが、「定置型の大容量蓄電池システム」です。平常時は構内で電力を融通供給するための電力自営線と、余剰電力の充放電を行う蓄電池を活用して電力需要が少ない時間には余剰電力を蓄電し、電力需要が多い時間には蓄電した電力を放電供給することで電力需給を平準化します。一方、停電・災害時は太陽光発電と蓄電池を活用し、非常用電力を供給します。

◆効率的な運転に欠かせないグリーン・グリッド制御盤◆

これらの設備を効率よく運用するために欠かせないのが、「グリーン・グリッド制御盤」です。各施設の電力や冷温熱は、用途や規模で差異があるほか、季節や時間帯によっても変化します。

多様な施設で構成される構内での再エネ地産地消を実現するため、「再エネの電力と熱を 施設間で融通し、過不足を充放電や蓄・放熱で賄う、再エネの地産地消を最大化することで、エネルギーの自立化を図っています」としています。

◆生産性と品質向上にICTも駆使◆

いちごの生産そのものもICT(情報通信技術)を導入。温度や湿度、日射量などをリアルタイムで測定するセンサーをハウス内に設置し、イチゴの生育に最適な環境を自動制御しています。ICTを活用することで、生産性と品質の向上を実現していく考えです。

◆エネルギー地産地消や地域の観光資源等に加え、環境教育の場としての役割も視野◆

「出雲ICHIGO縁」は12月から5月の期間で営業。冬期の観光需要を底上げする役割も期待されています。年間4~6万人の来場者を見込んでおり、今年も4月からゴールデンウイークにかけての週末はすでに予約が埋まっているとしています。

また、多様な再生可能エネルギーを地産地消する、先進技術を駆使したエネルギーシステムへの関心は高く、国の機関等をはじめ多くの視察者が訪れているとのことです。

津森氏は最後に「エネルギーの地産地消、常用防災兼用の施設、地域の観光資源として地域に貢献していくことに加え、今後、市内の教育機関との連携も深め、環境教育の場としての活用なども進めていければと考えています」と述べており、TSK農縁の取り組みは今後も注目が集まりそうです。

※記事中の写真のうち、井戸の写真は日本地下水開発㈱提供。その他の写真は、ECO SEED撮影

【出雲ICHIGO縁へのアクセス】

出雲大社より車で約7分

山陰自動車道「出雲IC」より車で約15分

一畑電車大社線「浜山公園北口駅」より徒歩約10分

出雲縁結び空港からレンタカーで約40分

「出雲ICHIGO縁」のホームページは以下URLとなります。

https://www.izumoichigoen.jp/ 

◆活躍の場が広がる日本地下水開発の帯水層蓄熱システム◆

地下水の熱利用拡大を視野に地下水揚水規制緩和に向けた検討が本格化する中、夏用と冬用の井戸で冷温熱を使い分ける帯水層蓄熱が注目されています。とりわけ日本地下水開発株式会社(JGD:山形県、桂木聖彦代表取締役)が開発した「高効率帯水層蓄熱システム」は帯水層蓄熱をベースに積雪寒冷地でネット・ゼロ・エネルギー・ビル(『ZEB』)を実現し、『ZEB』を目指す施主にとって注目すべき再生可能エネルギー熱利用技術です。実証により帯水層蓄熱と『ZEB』の親和性の高さが証明され、建物間で熱融通等を行う面的利用の実証も始まっているほか、農業分野での導入も始まり、注目されます。(エコビジネスライター・名古屋悟)

◆ZEB実現のベースとなるJGD高効率帯水層蓄熱システム◆

帯水層蓄熱が『ZEB』実現に効果があることを知る上でまず重要なのは、同社が開発した「高効率帯水層蓄熱システム」です。

このシステムは、NEDO事業「再生可能エネルギー熱利用技術開発」(2014~2018年度)で確立した国内初のシステムで、2本の井戸を冬期と夏期で交互に利用し、地下水の流れの遅い地下帯水層に冬期の冷熱、夏期の温熱をそれぞれ蓄える仕組みです。

冷房利用で温められた地下水をさらに太陽熱で加温し、より高温となった温熱を冬期の暖房用井戸周辺の地下帯水層に蓄え、冬期はその温かい地下水を暖房用に利用。一方、暖房で利用して冷えた地下水をさらに融雪の熱源としても利用し、より低温となった冷熱を夏期の冷房用井戸周辺の帯水層に蓄え、夏期に冷房で利用します。

このシステムを同社関連会社の事務所で空調に導入した結果、従来の帯水層蓄熱システム(3本の井戸を冷暖房の熱源として利用するシステム)と比較して初期導入コストの21%削減と年間運用コストの31%削減を達成しました。

また、熱を利用した後に地下に戻すのが難しかった地下水を全量還元できる井戸構築技術もこの実証事業で確立しています。

現在、国において地下水の熱利用に向けて地下水の揚水規制の緩和が検討されています。熱利用後の地下水の還元が大きなポイントの1つに挙げられており、JGDの高効率帯水層蓄熱システムはすでにこれに対応できる技術も確立している点が魅力です。

◆積雪寒冷地でのZEBを実現した高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム◆

この「高効率帯水層蓄熱システム」を発展させ、冬期の積雪により『ZEB』が難しいと言われている積雪寒冷地域で『ZEB』を実現したのが、2019年度から2024年度にかけて実施したNEDO助成事業「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」による「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」の実証です。

この研究開発では、「高効率帯水層蓄熱システム」に太陽光発電設備(30・7kW)、断熱効果を高めた外壁(厚さ300mm)、給湯回路に真空管式太陽熱温水器(84本)、換気装置に全熱交換システム、照明にLED照明、南西側の窓に太陽輻射熱を最大82%遮断する外付ブラインドを追加設置して『ZEB』を目指しました。

◆4年間全年度で運用上も「ZEB」を達成…冷暖房・給湯・冬期の無散水融雪の3つの熱需要を満たす◆

JGDの関連会社である日本環境科学株式会社(山形市高木:JESC)ZEB棟で実証試験が行われ、「冷暖房」・「給湯」・「冬期の無散水融雪」の計3つの熱需要に対応し、ゼネラルヒートポンプ工業と共同開発したヒートポンプ(冷房能力30kW、暖房能力30・1kW、給湯能力30・2kW:以下、HP)を使用しています。

JESC-ZEB棟では、2021年2月からデータを収集。その結果、2021年度から2024年度の年間トータルエネルギー収支は、削減したエネルギー量が消費電力量を上回る結果となり、4年間の全年度を通じて運用上でも『ZEB』を達成しました。

◆需要側に有利な温度の地下水揚水が可能◆

蓄熱のメリットは、需要側に有利な温度の地下水揚水が可能な点としています。

例えば2022年度の計測結果を見ると、地下水初期温度は16℃ですが、冷房開始時は事前の冷熱蓄熱でより冷たい温度(13・3℃)、暖房開始時は事前の温熱蓄熱でより温かい温度(24・4℃)の地下水が得られ、その後は蓄熱の消費(揚水量の累積)に伴い初期温度に向けて収束していっています。

『ZEB』達成の大きなポイントをについて、JGDの桂木聖彦代表取締役は、「夏期の冷房でHPを使わず地下水の冷熱だけで冷房するフリークーリングを行っている点が挙げられるほか、給湯用に導入した真空管式太陽熱温水器で集めた熱を利用する点、通常は冬期に融雪で利用する無散水融雪システムを夏にも運転させて集めた温熱を冬期に暖房で使う井戸周辺の帯水層に貯めておく点です」と述べています。

例えばフリークーリングの効果を計測結果から見ると、フリークーリングとHP冷房をそれぞれ実施した2023年度夏の結果では、フリークーリングのシステムCOP(SCOP)が23・00、HP冷房のSCOPが8・74となっており、エネルギー消費量削減効果の高さがうかがえます。

これらの結果から「積雪寒冷地でも『ZEB』を実現したことなどを踏まえると帯水層蓄熱は『ZEB』との親和性が高いことが示されたと思っています」と自信を覗かせます。

◆積雪寒冷地を重点エリアに高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム展開◆

JGDは、「ZEBプランナー」でもあります。

「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」の対象について聞くと、「高効率帯水層蓄熱は、『ZEB』との相性が非常に良いです」とし、「東北地方はじめ積雪寒冷地域を重点エリアとし、『ZEB』仕様建物の設計事務所や再生可能エネルギー熱の導入に積極的な設計者、環境意識が高い施主や設計者、CO2排出量削減意識が高い施主や設計者などをターゲットにしていきたいと思っています」としています。

対象となる施設については、建物面積500㎡~1500㎡規模の建物で、特に老健施設や診療所など24時間空調が必要な施設や、防災拠点となる庁舎や消防署などが主な対象になっていくのではないかとしています。

◆高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システムで「面的利用」の実証も開始◆

JGDは、これらの研究成果をさらに発展させる方針で、新たにNEDOの「再生可能エネルギー熱の面的利用システム構築に向けた技術開発」(2024年度から2028年度)において複数の熱需要に対して面的に熱供給する高効率帯水層蓄熱システムに関する研究開発「帯水層蓄熱を中心とした面的熱利用によるZEB及びZEH-Mの運用に係わる技術開発」(ゼネラルヒートポンプ工業と共同提案)をスタートしています。

高効率帯水層蓄熱システムを中心とした再エネ熱をZEBならびにZEH-Mといった複数施設で利用する面的熱利用システムの熱源とし、熱負荷の平準化、熱融通、熱利用を高度化することで、2028年度に再エネ熱利用システムの導入コストを2024年度比で25%削減、ランニングコストを25%削減することを目標としているとしています。

実証は本社に隣接する敷地でZEH-Mを目指す社員寮(木造2階建て約600㎡:1K15部屋)とZEB改修した山形事務所(鉄骨平屋建て約200㎡)の2棟で行う考えです。

共通の帯水層蓄熱システムを2棟で利用する形で、「高効率帯水層蓄熱システム」をベースに、太陽光発電設備、断熱効果を高めた外壁、給湯回路に真空管式太陽熱温水器などを導入する予定です。

社員寮は夜から朝、山形事務所は日中に電気や熱の需要が集中するため、熱需要の分散が期待できますが、「ZEH-M」社員寮には風呂等の熱需要が大きい点がZEBとは異なる点で、給湯の消費エネルギーをどの程度まで削減することができるかが今後のポイントになるとしています。

社員寮は15部屋ありますが、5部屋を高効率帯水層蓄熱システムによるHP給湯、5部屋をエコキュート、5部屋をガス給湯とし、比較試験を行う計画になっており、実証の結果が注目されます。

2025年内に山形事務所のZEB改修、高効率帯水層蓄熱システム用の井戸2本の工事を終えており、今年5月には社員寮の建築工事を着工し、その後、2026年秋には竣工予定で、2棟での本格的な実証を開始する見込みとなっています。

なお、同社による帯水層蓄熱システムは公共・民間含めこれまでに11施設で導入され、このうち2施設が高効率帯水層蓄熱システムとなっています。

◆農業分野でも導入始まった帯水層蓄熱システム…出雲の地で◆

帯水層蓄熱システムは、建物だけでなく農業分野での導入も始まっています。

JGDの帯水層蓄熱システムを導入したのは、TSKさんいん中央テレビグループの農業法人である株式会社TSK農縁(島根県松江市向島町140-1、清田睦人代表取締役社長)が2026年1月に出雲市内に開園した「出雲ICHIGO縁」(島根県出雲市大社町北荒木1521-4)です。

「出雲ICHIGO縁」は、約2haの敷地に栽培面積7,500㎡のハウス2棟からなる中国地方最大規模のいちごのハウス栽培施設です。

非常に大型の観光農園で、熱需要が非常に大きな施設です。

TSK農縁では、いちごの観光農園を作るにあたり、エネルギーの地産地消を掲げ、地域のエネルギー資源である木質バイオマスコージェネレーションや太陽光発電・熱ハイブリッドシステムの利用を当初から視野に入れていましたが、熱需要をすべて賄うことが難しいことから、その他のエネルギー資源も検討。その結果、同地に豊富に存在する地下水にたどり着き、地下水の流れる速度などから熱需要の不足分を帯水層蓄熱システムで補うことになったとしています。

春から夏は帯水層蓄熱を利用してヒートポンプによる施設冷房を行いながら冬期用の井戸に蓄熱し、秋から冬に蓄熱した温熱を利用してヒートポンプによる施設暖房を行う計画になっています。

また、「出雲ICHIGO縁」の特徴として、この帯水層蓄熱によるヒートポンプシステムの駆動に必要な電力は、木質バイオマス発電など再生可能エネルギー発電で賄うことになっており、グリーンな冷暖房を実現している点も特徴になっています。

積雪寒冷地での『ZEB』を実現し、建物以外で用途でも導入が始まったJGDの高効率帯水層蓄熱システムは、今後の動向も注目されます。

 ※記事中の図は、すべてJGD提供

 ※「出雲ICHIGO縁」の詳細は別途紹介します。

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◆環境省がビル用水法の技術基準見直し視野に検討本格化◆

地中熱利用を巡る動向の中で現在、クローズドループよりも効率の良いオープンループ(地下水を揚水して熱源利用)タイプに関連したシステム普及の拡大に向けた規制緩和の議論が始まっています。

これは、帯水層蓄熱など地下水の熱利用促進を視野にビル用水法の施行規則の改正を行う方針を固めた環境省の動きで、「建築物用地下水の採取の規制に関する技術的基準等に係る検討会」での検討を開始しています。

地下水の熱利用は、地中に埋設した熱交換器内に流体を循環させて間接的に地中の熱を利用するクローズドループ方式に比べて、地下水を直接熱源とするため、井戸1本あたりの採熱量が多く、非常に効率的ですが、過去の地盤沈下を踏まえた地下水の揚水を規制するビル用水法による規制が地域によってはあり、簡単に利用できない等の課題がありました。

◆「地下水還元型地中熱利用システム」◆

今回の規制緩和の検討では、揚水を規制しているビル用水法の技術的基準を見直し、現在、揚水が規制されている地域でも要件を満たせば、地下水を揚水して熱利用することを可能とするもので、2月に開かれた第1回会合では、事務局が案を示し、「揚水した地下水を同一帯水層に全量還元する構造を有すること」、「揚水量及び揚水を行う帯水層の周辺の土質の状況等を勘案し、地下水位・地盤高が著しく変化する恐れがないこと」、「稼働中におけるモニタリングの実施等の地盤沈下の防止に必要な措置を行うこと」を要件として『地下水還元型地中熱利用システム』の導入を可能にする考えとしています。

要件を満たすための検討手法やそれぞれの数値的基準は別途策定するガイドラインで示す方針で、「揚水した地下水を同一帯水層に全量還元する構造を有すること」に関しては全量還元するための井戸掘削方法や井戸構造等を示す方針です。

「揚水量及び揚水を行う帯水層の周辺の土質の状況等を勘案し、地下水位・地盤高が著しく変化する恐れがないこと」に関しては、事前の土質ボーリング・サンプリング・土質試験・現場透水試験等を示すほか、システム運用による地盤影響評価手法や数値基準を、周辺への配慮が地下水質・水温等に必要な場合、還元時の地下水の温度・水質に著しい変化が認められないことの確認方法等を示す考えになっています。

また、「稼働中におけるモニタリングの実施等の地盤沈下の防止に必要な措置を行うこと」に関連しては、必要なモニタリング項目等や揚水井や還元井、追加の観測井の設置などモニタリング地点について示す考えとしています。

◆改正施行規則施行は2027年秋を視野に◆

改正施行規則の施行は2027年秋を目指すとし、2026年秋にも改正施行規則の公布、2026年度内にもガイドラインを策定する予定としています。

環境省は今後、第1回検討会での意見等を踏まえた改正施行規則の案等について2026年度早々にもパブリックコメントを実施し、2026年夏に同年度第1回検討会、同年秋に第2回検討会を開き、施行規則の改正、ガイドラインの策定を進めていく方針としています。

◆民間団体でも勉強会◆

また、環境省の動きを踏まえ、民間団体でも呼応する動きが始まっています。

一般社団法人全国さく井協会とNPO法人地中熱利用促進協会は3月6日に「カーボンニュートラルに向けた地下水の適正熱利用勉強会~用水2法の規制緩和の可能性~」を開催。

大阪市環境局環境施策部エネルギー政策担当課長の大谷直人氏が『大阪市の帯水層蓄熱の普及促進に向けた取組』を、環境省水・大気環境局環境管理課環境汚染対策室室長補佐の松井達氏が『地下水採取規制の合理化に向けた検討状況』をテーマにそれぞれ講演したほか、質疑応答が行われ、活発な議論が交わされました。

◆補助事業情報◆

なお、『地下水還元型地中熱利用システム』の導入に当たって利用可能な補助事業は以下のようなものがあります。

【民間向け補助金】

▼民間企業等による再エネの導入及び地域共生加速化事業

▼地域共生を目指したデータセンター脱炭素化設備導入支援事業

▼建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業

▼住宅の脱炭素化促進事業

【公共向け補助金】

▼地域脱炭素推進交付金

▼地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共避難施設・防災拠点への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業(地域レジリエンス事業)

 ※以降のページでは、地下水の熱利用で注目される事例等を紹介します。

環境省水・大気環境局環境管理課環境汚染対策室・鈴木清彦室長に聞く

地中熱編


土壌・地下水環境分野を巡っては、2024年9月に土壌汚染対策法の見直しに向けて始まった中央環境審議会における審議が大詰めを迎えているほか、依然として社会的関心が高まっている有機フッ素化合物(PFAS)への対応の行方などが注目されています。また、2050年ゼロカーボン社会実現に向けた動きも一層関心が高まっており、再生可能エネルギー熱利用である地中熱利用への期待も高まっています。土壌・地下水汚染や地中熱利用等に関する環境行政が今後どのように進むのか。現状や今後の展望について、環境省水・大気環境局環境管理課環境汚染対策室の鈴木清彦室長に話を聞きました。(エコビジネスライター・名古屋悟)

※この記事は2026年1月5日に発行した「Geo Value」2026年新年号に掲載したもののうち、地中熱利用施策の部分を抜粋したものです。


◆普及拡大に向けて引き続きの補助金、さらなる普及啓発への広報活動強化◆

――土壌・地下水は地中熱等の貴重な熱資源としての価値もあり、2050年ゼロカーボン社会を目指す上で、地中熱利用の拡大への期待も集まっていますが、現状はいかがでしょうか?

「地中熱は土地があればおおむねどこでも利用できる使い勝手の良い再生可能エネルギーであり、潜在的なポテンシャルはとても大きいものですが、太陽光発電など再生可能エネルギー発電に比べて十分利用できていない状況だと思っています。

周辺環境への影響を考えても、地中熱利用は周辺への影響が極めて少ない低環境負荷な再生可能エネルギーであると認識しています。

環境省では2010年度から2年ごとに全国の地中熱利用設備の設置状況を調査しています。最新の2024年度の結果によると、地中熱利用における累計設置件数は全国で9,188件あり、2022年度調査から427件増加しました。このうち利用方法別で最も多いのはヒートポンプ方式の3,436件であり全体の37.4%を占めます。次いで水循環の2,342件で25.5%、空気循環の2,293件で25.0%、熱伝導の877件で9.5%、ヒートパイプの240件で2.6%となっています。(https://www.env.go.jp/water/jiban/survey.html )

環境省ではこれまでも導入時のコスト負担を軽減する補助事業による支援や低コスト化等技術の実証事業、地中熱利用状況調査結果を反映したパンフレットの作成などを行っていますが、普及拡大の動きが鈍いのは、非常にもったいない状況だと感じています」

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――導入コストの軽減につながる2026年度の補助事業についてはいかがですか?

「2026年度予算はまだ成立していませんが、予算案にも『民間企業等における再エネの導入及び地域共生加速化事業』や『住宅の脱炭素化促進事業』、『建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業』などを盛り込んでいますので、予算成立後、ご利用いただければと思っております。(※予算案示された場合にURLを記入)

一方で、環境省としては補助事業や低コスト化を視野に入れた技術実証等を通じて地中熱利用を支援してきましたが、導入コストが依然として高いと認識されている点や知名度が低い点が普及拡大に向けた課題になっていると考えています。

業界関係者の努力により低コスト化はだいぶ進んだと思いますが、一般での知名度は低いままであり、地中熱利用の知名度向上は大きな課題と考えています」

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◆延べ1,400名が参加している地中熱懇談会◆

――地方自治体等での知名度は上がっていますが、一般ではやはり残念ながら知名度の低さは感じます。こうした点から環境省では2024年度から『再生可能エネルギー熱「地中熱」に関する懇談会』を開催していますが、これまでの状況はいかがですか?

「環境省では業界や立場を超えた多くの皆様に地中熱について関心を持っていただきたいという思いから、2024年度に『再生可能エネルギー熱「地中熱」に関する懇談会』を立ち上げ、今年度2025年度も継続して実施しています。会場参加だけでなくより幅広く参加いただきたい考えからオンラインでの参加も募り、これまでに延べ1,400名の方々にご参加いただいております。

2025年度は、対象とする施設を絞り、それぞれの分野に最適化した地中熱の導入方法について理解を深めるべく、会ごとにテーマを設定しています。

6月に開催した2025年度第1回では『工場』をテーマに導入例などを、9月に開催した第2回(写真:ECO SEED撮影)では『地産地消』をテーマに地方自治体による導入例などをそれぞれ紹介していただきました。

この2回の懇談会は、動画や資料を公開しておりますので、ぜひご覧いただければと思っております。(https://www.env.go.jp/water/jiban/page_00001.html

また、11月には第3回として「医療施設における地中熱の役割」をテーマに、病院の脱炭素化と経営改善の2つの視点から地中熱利用設備を検討する場も設けました。この第3回は対象者を限定しているため、会場参加のみとして開催しましたが、有意義な意見等を頂戴することができました。

2025年度の懇談会は年明けにもう一度、開催する機会を予定しています。決定しましたら改めて環境省ホームページ等を通じてご案内しますので、ぜひご参加ください。

また、2026年度予算はまだ成立していませんが、2026年度も引き続き懇談会は開催していきたいと考えております」

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――知名度の向上が課題とする中、情報収集のツールとしてどのようなものがありますか?そして2026年度はどのように展開するのでしょうか?

「『地中熱ポータル』(https://www.env.go.jp/water/jiban/thermal.html )を開設しています。ここでは、先にお話した懇談会の情報や地中熱利用状況調査の結果などのほか、国内の地中熱導入例やインタビュー、ZEBにおける地中熱導入例などを公開しているほか、地中熱読本などの冊子やパンフレットをダウンロードできます。地中熱動画も公開していますので、ぜひご活用いただければと思います。

また、2026年度は懇談会に加え、さらに広報施策を充実させていきたいと考えています。地中熱を導入する発注者側のメリットとなるような仕組みや、広く知っていただくためのコラボレーションなども視野に入れ、取り組んでいければと思っています」

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◆地中熱利用のヒートアイランド現象緩和効果に改めて焦点を◆

――省エネ、省CO2等のメリットはこれまでにも環境省も業界も多く発信してきましたが、なかなか壁が破れませんね。

「私は『ヒートアイランド現象』に改めて焦点を当ててもいいのではないかと考えています。

昨年の夏もそうでしたが、近年は夏場の高温環境が顕著であり、熱中症患者も増加の一途をたどっています。厚生労働省がまとめている都道府県別にみた熱中症による死亡数の推移によると、全国で2021年度755人、2022年度1,477人、2023年度1,651人と増加し、2024年度には2,160人と熱中症による死者は2,000人台に達しています。

地球温暖化による温度上昇に加え、特に都市部ではヒートアイランド現象が深刻化してきているように感じています。

地中熱利用は以前から冷房時の排熱を地中に送るため、ヒートアイランド現象の緩和効果が期待されると言われてきましたが、この効果をいま一度、重視していく必要があるように思います。

例えばですが、地中熱のうち帯水層蓄熱の事例では、夏期の冷房排熱だけでなく路面の熱も冬期用の帯水層に蓄熱し、冬期の暖房熱源として利用しているケースもあります。夏の熱を冬の暖房に生かす非常に効率の良い取り組みであり、冬期暖房の一次エネルギー消費量削減はもちろんですが、夏期のヒートアイランド現象の緩和効果も期待できるのではないかと思っています」

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◆地下水の熱利用に向けて揚水規制緩和の検討視野に◆

――確かに都市部では多くの建物自体が太陽熱で温められるほか、無数に設置されている空気熱源方式のエアコン室外機からの排熱による加温効果も大きそうですから地中熱利用による夏期のヒートアイランド現象緩和効果の検証の結果などもわかるといいですね。

「2026年度ですが、先ほど触れた帯水層蓄熱等にも関係してくるものとして、『揚水規制に係る検討』も行いたいと考えています。

帯水層蓄熱を含めて地下水を熱源とする熱交換方式は、非常に熱交換効率が高く、導入コストの削減やさらなる省エネ化などに大きな効果を発揮するものと考えますが、高度経済成長期の地盤沈下を踏まえ、現在でも多くの地域で厳しい揚水規制が設けられており、脱炭素化のためと言っても簡単に地下水を利用できないケースは少なくありません。

帯水層蓄熱システムの普及を目指す大阪市が、国家戦略特区において認められている規制緩和について、大阪市域における地盤環境に配慮した地下水の有効利用に関して要望を行い、ビル用水法等の揚水規制の緩和を進めていますが、ほかの地域では規制のため地下水の熱利用を進めにくい状況があります。

そこで、2026年度はビル用水法省令の見直しに向けた検討を進めるほか、ガイドラインの策定に向けた準備も進めていきたいと考えています。

このあたりも予算成立が前提になりますが、注目していただければと思っています」

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――2026年度も注目される施策が盛りだくさんですね。ありがとうございました。(終わり)