◆規制緩和の肝は“地下水の還元”… 全量還元できる井戸構築技術を確立済み◆
「広報『地中熱』」2026夏特集では、地下水の熱利用を促進するため揚水規制がかかる地域でも地下水を揚水して熱利用しやすくする国の規制緩和(ビル用水法施行規則の一部を改正する省令)や、道路行政においても脱炭素化を目指す国土交通省の改正道路法に基づく「道路脱炭素化推進計画」でも地中熱利用に注目が集まっていることを紹介しています。この2つの流れは今後、地中熱利用の普及拡大に向けたポイントとなりそうですが、高効率帯水層蓄熱利用システムの開発等に注力している日本地下水開発株式会社(山形市松原、桂木聖彦代表取締役:社名略称JGD)の取り組みは、規制緩和など国の動きに対応する技術を備えており、今後さらに注目を集めそうです。JGDの桂木聖彦代表取締役を取材しました。(エコビジネスライター・名古屋悟)
◆高効率帯水層蓄熱システム開発の過程で全量還元技術も確立◆
2026年7月1日に公布された「ビル用水法施行規則の一部を改正する省令」(2027年9月1日施行予定)は、揚水規制があってこれまで地下水の熱利用ができなかった地域でも地下水の熱利用が可能になるという点で大きな可能性を秘めていますが、一方で熱利用した後の地下水を同一帯水層に全量還元しなければならないという点が非常に重要な点になります。
土圧や地下水圧がかかっている帯水層に地下水を戻すということは、想像しているよりもはるかに難しいものです。
ここで注目したいのが、地下水熱利用のパイオニアであるJGDの「高効率帯水層蓄熱システム」の技術開発です。
このシステムは、JGDが新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業「再生可能エネルギー熱利用技術開発」(2014~2018年度)で確立した国内初のシステムで、2本の井戸を冬期と夏期で交互に利用し、地下水の流れの遅い地下帯水層に冬期の冷熱、夏期の温熱をそれぞれ蓄える仕組みです。
冷房利用で温められた地下水をさらに太陽熱で加温し、より高温となった温熱を冬期の暖房用井戸周辺の地下帯水層に蓄え、冬期はその温かい地下水を暖房用に利用。一方、暖房で利用して冷えた地下水をさらに融雪の熱源としても利用し、より低温となった冷熱を夏期の冷房用井戸周辺の帯水層に蓄え、夏期に冷房で利用します。
このシステムを同社関連会社の事務所で空調に導入した結果、JGDの従来の帯水層蓄熱システム(3本の井戸を冷暖房の熱源として利用するシステム)と比較して初期導入コストの21%削減と年間運用コストの31%削減を達成しています。
そして注目すべきは、熱を利用した後に地下に戻すのが難しかった地下水を全量還元できる井戸構築技術もこの実証事業で確立している点です。
JGDの桂木聖彦代表取締役は、ビル用水法施行規則の一部を改正する省令の施行を機に「揚水規制の緩和が進むことで、これまで地下水の熱利用が難しかった首都圏等でも導入が可能になりますので、積極的に展開していきたいと考えています」と述べる一方、「当社は実証事業を通じて全量還元できる井戸構築技術を確立していますが、全量還元させるには地域の地層の違い等を把握する必要があり、地域の特性を踏まえた工夫が必要です。今後、揚水規制緩和が進んだ際には全量還元を実現するためのノウハウを生かして取り組んでいきたいと思います」と話し、現在、揚水規制がかかっている地域で全量還元が可能かどうかの実証の必要性等にも言及しています。
山形市に本社を置く同社ではこれまで帯水層蓄熱利用システム関係の顧客の多くが地元・山形県を中心とした東北地方ですが、揚水規制が緩和後は揚水規制によって地下水の熱利用ができなかった地域でも積極的に展開していきたい考えとしています。
◆高効率帯水層蓄熱システムは積雪寒冷地でのZEB実現の柱にも◆
なお、JGDでは、この「高効率帯水層蓄熱システム」を発展させ、冬期の積雪により『ZEB』が難しいと言われている積雪寒冷地域で『ZEB』も実現しています。
これは、2019年度から20243年度にかけて実施したNEDO助成事業「再生可能エネルギー熱利用にかかるコスト低減技術開発」による「高効率帯水層蓄熱によるトータル熱供給システム」の実証です。
この研究開発では、事務所に「高効率帯水層蓄熱システム」を設置したほか、太陽光発電設備(30・7kW)、断熱効果を高めた外壁(厚さ300mm)、給湯回路に真空管式太陽熱温水器(84本)、換気装置に全熱交換システム、照明にLED照明、南西側の窓に太陽輻射熱を最大82%遮断する外付ブラインドを追加設置して『ZEB』を目指しました。
JGDの関連会社である日本環境科学株式会社(山形市高木:JESC)ZEB棟で実証試験が行われ、「冷暖房」・「給湯」・「冬期の無散水融雪」の計3つの熱需要に対応し、ゼネラルヒートポンプ工業と共同開発したヒートポンプ(冷房能力30kW、暖房能力30・1kW、給湯能力30・2kW:以下、HP)を使用しています。
JESC-ZEB棟では、2021年2月からデータを収集。その結果、2021年度から2025年度の年間トータルエネルギー収支は、削減したエネルギー量が消費電力量を上回る結果となり、5年間の全年度を通じて運用上でも『ZEB』を達成しています。
JGDはさらに進化を図るべく、新たにNEDOの「再生可能エネルギー熱の面的利用システム構築に向けた技術開発」(2024年度から2028年度)において複数の熱需要に対して面的に熱供給する高効率帯水層蓄熱システムに関する研究開発「帯水層蓄熱を中心とした面的熱利用によるZEB及びZEH-Mの運用に係わる技術開発」(ゼネラルヒートポンプ工業と共同提案)をスタートしています。
高効率帯水層蓄熱システムを中心とした再エネ熱をZEBならびにZEH-Mといった複数施設で利用する面的熱利用システムの熱源とし、熱負荷の平準化、熱融通、熱利用を高度化することで、2028年度に再エネ熱利用システムの導入コストを2024年度比で25%削減、ランニングコストを25%削減することを目標としているとしています。本社近くの山形事務所と社員寮を舞台に今後検証が進められる予定で、こちらの成果も注目されています。
◆帯水層蓄熱利用システムはこれまでに「出雲ICHIGO縁」など11施設に◆
JGDによる帯水層蓄熱システムは公共・民間含めこれまでに11施設で導入されています。「広報『地中熱』」でも紹介した「出雲ICHIGO縁」(島根県出雲市大社町北荒木1521-4:2026年1月開園)(https://geovalue-plus.themedia.jp/posts/58676238 )などで導入されています。
◆高効率帯水層蓄熱システム導入の「川西まちなかテラス」が5月2日にオープン◆
11施設のうち2施設が高効率帯水層蓄熱システムを導入しており、2026年5月2日にオープンした山形県川西町の「川西まちなかテラス」は、「高効率帯水層蓄熱システム」を導入した施設になっています。
「川西まちなかテラス」の設備は、環境省地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共施設への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業(2/3補助)で整備されたもので、空調面積252.5㎡(ホワイエ部)に対して、高効率帯水層蓄熱システム井戸100m×2本と太陽熱集熱115㎡の組み合わせで、冷暖房(暖房能力35.2kW、冷房能力31.9kW)を賄う計画になっています。
「川西まちなかテラス」の整備進捗状況は以下のURLを参照してください。
https://www.town.kawanishi.yamagata.jp/machinojoho/seisaku/2025-0116-1416-61.html
◆道路脱炭素化で注目される無散水融雪システム◆
もう1つ関心を集めているのは、道路法に基づく「道路脱炭素化推進計画」の動きです。
同法改正から1年を迎えた国土交通省がこのほどまとめた同法に基づく「道路脱炭素化推進計画」の策定状況では、東北地方整備局などがまとめた計画に地下水熱を利用した消融雪システムが盛り込まれ、注目を集めていますが、地下水熱を利用した消融雪システムはまさにJGDの柱の1つです。
遡ること1968年に本社構内に地下水還元型融雪システム(無散水融雪システム)の実験施設を設置したことからJGDの「無散水式融雪システム」はスタートしています。
JGDのシステムは、くみ上げた地下水を路面等に直接散布せず路面下に敷設した配管の中を通して熱だけ利用した後に地下還元するものであることから、貴重な地下水資源の保全と融雪を両立させます。
2026年3月末現在、実に東京ドーム(46,755㎡)約38個分以上の面積となる総施工面積177.4万㎡で施工され、雪国における車道、歩道での冬期間の移動を助けるシステムとして大きな役割を果たしています。
地域を見ると、地元・山形県をはじめ秋田県、福島県、長野県など1道1府19県で施工実績があります。
道路のほかにもドクターヘリの拠点になっている山形県立中央病院のヘリポートにも地下水還元型無散水融雪システムが導入され、冬期の緊急医療を支えています。
また、蔵王温泉郷では、温泉排湯を利用した無散水融雪設備が導入され、冬期でも温泉街の道路を安全に移動することを実現しています。
道路においても脱炭素化が求められる中、同社の無散水融雪システムは今後ますます活躍の場を広げそうです。
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