地中熱利用は、都道府県や市町村の庁舎や学校、コミュニティーセンターなどの公共施設での利用が向いていると言われ、これまでも全国の公共施設で導入されてきました。一方で、地中熱利用に関する意識は、地方公共団体ごとに大きな差が生じているのも事実です。こうした中、NPO法人地中熱利用促進協会は今年3月、「地中熱利用普及拡大に向けた政策提言―公共施設における地中熱利用―」をまとめ、公表しました。今後、この提言に基づき、全国の地方公共団体における地中熱利用の活性化を促すことが期待されますが、公共施設における地中熱設備導入のメリットなどについて、NPO法人地中熱利用促進協会の笹田政克理事長(写真)にお話を伺いました。(聞き手:エコビジネスライター・名古屋悟)
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既設事例から見えた導入メリット…「環境配慮」、「コスト」、「地産地消のエネ利用」
聞き手(エコビジネスライター・名古屋悟)「近年、国や地方公共団体の公共施設の新築、改築などにおいて地中熱設備を導入する事例が増え始め、注目されています。しかし、積極的に地中熱利用を進める地方公共団体がある一方で、地中熱利用に慎重だったり、ほとんど知らないというケースも少なくないように思います。こうした中、公共施設における地中熱利用の普及拡大を進めることを目的に、協会では提言をまとめられました」
笹田氏「この提言は、協会の制度政策分科会(桂木聖彦分科会長)がとりまとめたものです。地中熱利用の普及拡大に向けた会員企業それぞれの思いが詰まった提言になっています。これまでも地中熱は、庁舎や学校、コミュニティ施設などを中心に、全国の公共施設への導入が進められてきましたが、さらに地中熱の普及を拡大していくには、やはり先行して公共施設への導入が進み、民間施設へ波及していくことが望まれます。
こうした中、今後、公共施設は統廃合が進められることが予想されており、長期的な利活用が求められることになります。省エネ性と環境性に優れた地中熱ヒートポンプは、熱需要の大きな施設ほど初期コストの回収年数が短くなることから、公共施設の中でも病院や福祉施設など年間を通して熱需要の大きい施設への導入件数が増える傾向にあります。
また、これから公共施設を新築・改築する際には、最新の省エネ設備や多様な再エネ設備が導入されたネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)を目指す時代が到来する中、地中熱はZEBの実現における省エネの大きな構成要素となります。建築確認申請時に地中熱ヒートポンプの省エネ性能評価ができるようになったことで、今後地中熱利用の導入件数が大きく伸びるものと予想しています。
こうした状況を踏まえ、協会では、雑誌・書籍等で取り上げられた公共施設への導入事例について調査を行い、82件の施設について、導入理由とメリット、先進性・モデル性などの特徴、性能・効果、政策・補助事業の項目についてまとめ、ユーザーである自治体が、どのような導入目的や経緯で地中熱を導入し、どのようなメリットと効果を期待しているかについて分析・整理しました。
その結果、公共施設へ地中熱を導入するメリットとして、再生可能エネルギーの導入、省エネ・CO2削減などの『環境配慮』(22件)、ランニングコスト削減、補助金を含む『コストメリット』(20件)、地下水が豊富などの地域における地中熱有利性など『地産地消のエネルギー利用』(10件)が主なメリットとして挙げられ、協会としても重視しているところです」(上図参照:NPO法人地中熱利用促進協会資料より)
庁舎での空調利用で従来方式比45%CO2削減
聞き手「調査から分かった地方公共団体が感じている『地産地消のエネルギー利用』と『環境配慮』のメリットは具体的にどのようなことでしょうか?」
笹田氏「国のZEBの推進に伴い、地方の公共施設もますますエネルギー・環境に配慮した設備導入が求められています。また、地下水熱を含むその地域で得られる地産地消のエネルギーである地中熱を利用することは、BCP(事業継続計画)や地域産業の活性化の観点からも有意義です。
地中熱利用は、消費するエネルギーの大半を地中熱で賄うことにより、温室効果ガスであるCO2の排出量を大幅に削減することが可能であり、騒音や排ガスなど周辺環境への負荷も少ないことが大きな特徴です。例えば、温水プールの導入事例では従来方式に比較し55%、庁舎の空調利用では同じく45%のCO2排出量を削減しています。地下水が豊富な地域や地盤の熱伝導率の高い地域などでは、さらに効率的な地中熱活用が可能となり、まさに究極の地産地消のエネルギーとなります」
聞き手「地中熱導入はコストが割高と言われることが多いですが、地方公共団体では「コストメリット」を上げるケースがあります。導入した公共施設ではどのような視点でメリットを感じているのでしょうか?」
笹田氏 「導入事例分析ではランニングコスト30~40%の削減効果を上げており、青森県や北海道など寒冷地では、50%を超える事例もあります(下図参照:NPO法人地中熱利用促進協会資料より)。イニシャルコストも、環境省の『再生可能エネルギー熱電気・熱自立的普及促進事業』など補助金の活用で軽減することができます。
また、地中部分の配管は樹脂製であり耐用年数が非常に長く、メンテナンスも軽減されることから維持費の軽減につながり、ライフサイクルコストでも有利です。さらに、ESCO事業などエネルギーサービス事業や民間資金の活用により、初期投資を軽減することも可能です」(続く)
※土地環境電子媒体「GeoValue」Vol.53(2016年6月4日付配信号)より転載
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