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「BCP」の視点や公共施設の「長寿命化」、「地域産業活性化」でも大きなメリット
聞き手「なるほど、公共施設向けの補助事業があるほか、メンテナンス性や耐用年数など公共施設の維持管理の面で地中熱は効果が期待できるということになりますね」
笹田氏「これら自治体の皆様が認識されているメリットのほか、この82件の調査では目立ちませんでしたが、このほかにも公共施設への導入を検討される際に考慮していただきたい地中熱利用のメリットがあります。
その1つとして『多様かつ幅広い活用方法』が挙げられます。学校など教育施設、庁舎やコミュニティ施設、温浴施設、病院・福祉施設、融雪施設など多様な用途に地中熱利用ができます。例えば、システムパネルの設置など『見える化』することで学校では環境教育に活用でき、庁舎・コミュニティ施設では住民に対して環境意識の啓発にもつながります。(下写真:横浜市港南区総合庁舎1階ロビーのパネル:撮影ECO SEED撮影)
また、公共施設は災害時には防災拠点としての機能も求められることから、太陽光発電・蓄電池などともに省エネ設備である地中熱を導入することは、BCPの観点から有効です。一例ですが、東日本大震災で被災し、国土交通省が現地にゼロエネルギー庁舎のコンセプトで再建した石巻港湾合同庁舎にも、地中熱ヒートポンプシステムが導入されています。
大規模な施設では、水蓄熱方式や従来の空気熱源方式を併用することで、イニシャルコスト・ランニングコストを低減することができます。さらに、床暖房など輻射冷暖房を採用することで、快適な環境づくりが可能となります。このような多様な用途に幅広く活用できるのも、地中熱の特徴です。
また、『長寿命化施設に活用』という視点でもメリットがあると考えています。少子高齢化と人口減少により、地方自治体の施設はさらに縮小と統廃合が進められると同時に、長期的に利用する指向が高まることから、これから建設する施設には、ランニングコストの削減だけでなく、設備の長寿命性が求められます。再生可能エネルギー設備の中で最も広く普及している太陽光発電の耐用年数は20年と言われていますが、地中熱利用の場合はシステムの主要部分を構成する地中熱交換器が高密度ポリエチレン製であり、耐用年数は50年以上と長期にわたる利用が可能です。このように地中熱交換器をはじめ地中埋設部分が長寿命であるため、ライフサイクルでは有利となります。図書館やコミュニティ施設などの複合施設、集約型施設は特に長期的に使われ、多くの住民が利用されるため地中熱利用に適しています。また、既存施設の設備改修や更新需要にも対応可能です。
さらに、『地域産業の活性化』でも地中熱は役立ちます。地中熱ヒートポンプシステムは、地中熱交換井の掘削や配管、ヒートポンプ機器、制御など幅広い技術が必要なため、様々な業種が事業に携わることとなります。再生可能エネルギー利用設備の中では、地中熱利用設備の地域産業への依存率は小水力に次いで高く、地域産業の振興に役立ちます。よって、その地域に存在する井戸掘削会社、設備会社、地場ゼネコンや地場工務店等が参入する機会も増えることとなり、地域の活性化にもつながります」
環境省『人材派遣等による低炭素化事業の案件形成支援』事業の協力団体に登録
希望する自治体にアドバイザー派遣へ
聞き手「施設の『長寿命化』は今後の社会インフラとしての命題ですし、『地域産業の活性化』という部分も地域の核となる地方公共団体にとって重要な視点になりそうですね。
笹田氏「このほかにも、環境省において地方公共団体の地球温暖化対策実行計画をサポートする事業が2018年度からスタートし、当協会としても注視しています。環境省は2018年度から5年間の計画で『地球温暖化対策地方公共団体実行計画』の促進を目的とし、協力専門団体から地方公共団体にアドバイザーを派遣し、案件形成で助言を行う『人材派遣等による低炭素化事業の案件形成支援』事業を実施するとしています。当協会は、この協力団体に登録し、自治体の要請を受けてアドバイザーを派遣することとしています。
このアドバイザーという仕組みについては、先々、公共施設だけでなく民間事業者へのアドバイスも含めた恒久的な仕組みも必要になってくると考えており、今後、既存の制度等の得失を見ながら地中熱利用のアドバイザー派遣の制度設計を行うことが必要となってきますが、当面は2018年度の環境省案件に対応した暫定措置を講じることを検討していきたいと思っています」
聞き手「地方公共団体の案件形成に当たり、協会が全面的にサポートしていくということですね」
笹田氏「先ほども話した通り、地中熱は公共施設への導入効果の高い再生可能エネルギーです。温室効果ガス排出を減らしながら省エネを実現し、かつ地域が持続的に成長できる政策を持たれている自治体の皆様には、是非継続的に地中熱の導入を検討していただきたいと考えております。
パリ協定において世界と約束した、2030年までに2013年度比で26%の温室効果ガス削減を果たすためにも、各自治体におかれましては、具体的方策として、公共施設の新築・改築時において、再生可能な熱エネルギーである地中熱の導入を検討して頂けるようお願い申し上げます。
当協会では、自治体の皆様とともに、これからも地中熱の普及促進を進めてまいります。地中熱の利用の仕方などご不明な点がありましたら、協会事務局やそれぞれの地域の会員にご相談ください」(終わり)
※土地環境電子媒体「GeoValue」Vol.53(2018年6月4日付配信号)より転載
※NPO法人地中熱利用促進協会の政策提言のデータが以下リンク先でダウンロード可能です。
http://www.geohpaj.org/wp/wp-content/uploads/teigen_201806001.pdf
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