地下鉄湧水熱利用の先進事例に――。2017年3月21日にオープンした横浜市港南区総合庁舎(横浜市港南区港南4-2-10)は、横浜市営地下鉄ブルーラインのトンネル湧水を熱源とした空調システムを導入する全国でも珍しい冷暖房システムが導入されています。都市部でのトンネル湧水は一部で河川水量の維持などのために利用されているケースはありますが、そのほとんどが下水道等へ放流され、有効利用されているケースは多くありません。地下鉄トンネル湧水を利用するに至った経緯やシステムの概要などについて、港南区総合庁舎を訪ね、取材しました。【エコビジネスライター・名古屋悟 ( ECO SEED 代表)】
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◆「CASBEE横浜」最高位Sランク建築物で地下鉄トンネル湧水熱利用!
区役所の機能と消防署が入る新庁舎は、敷地面積5,077㎡、延床面積17,163㎡の地上7階、地下1階の鉄⾻造、⼀部CFT造、鉄⾻鉄筋コンクリート造の建物で、「災害に強く安全・安心、省エネで地球環境に配慮した総合庁舎」を目指して作られたものです。(下写真:ECO SEED撮影)
横浜市では市庁舎建物などの建設にあたり、公共建築物環境配慮基準に基づくこと等を設定しており、港南区総合庁舎においても環境への配慮として太陽光発電や直射日光の遮蔽と自然採光の活用や自然換気による中間期の冷暖房負荷を抑制する仕組みを導入するとともに、冷暖房システムとして地下鉄トンネル湧水と太陽熱温水パネルを組み合わせたシステムを導入し、建物環境性能「CASBEE横浜」最⾼位Sランクを取得しています。(下図:横浜市資料より)
◆近傍の地下鉄駅付近の湧水排水用ポンプ場から庁舎に導水!
トンネル湧水は庁舎から100m程離れた場所にある市営地下鉄「港南中央駅」付近の「大谷ポンプ場」から庁舎へと導水し、空調用熱源として利用しています。使用する湧水は1日あたり400㎥(計画水量)ほどで、カスケード利用(多段階利用)している点が大きな特徴です。
ポンプ場から送水されてきた湧水は、まず一次利用水槽に送られ、プレート式熱交換器を介して熱だけ回収し、水熱源ヒートポンプ(WHP)2台(178KW×2、ゼネラルヒートポンプ工業)で冷温水を作り、空冷ヒートポンプチラー(AHP)と組み合わせて空調に利用しています。
一次利用後の湧水は二次利用水槽に送られ、こちらでもプレート式熱交換器を介してガス吸収式冷温水発生機(GRS)の熱源として、太陽熱温水システムと組み合わせて利用します。
◆熱源利用した水はカスケード利用!
地下鉄トンネル湧水等を利用して作られた冷温水はデシカント空調で庁舎内の冷暖房や、総合受付がある1階の床輻射冷暖房に利用されています。
二次利用を終えた湧水は排水槽へ送られますが、一部はろ過、滅菌処理した後、雑用水槽へ送られ、屋上緑化の散水やトイレ洗浄用水、災害時マンホールトイレの用水として利用しています。
市担当者によると、当初は地下水をくみ上げて熱源にするオープンループが検討されていましたが、庁舎予定地近くにある市営地下鉄「港南中央駅」近傍にトンネル湧水を下水道に放流するための「大谷ポンプ場」があったことからトンネル湧水を熱源に利用できないか検討を開始。設備が敷地内だけでなく、導水管をポンプ場から敷設する必要があることから許可等で道路局や市営地下鉄など関係部局との調整を重ねて実現したとのことです。
◆庁舎内モニターで利用状況等を市民にお知らせ
港南区総合庁舎ではエレベーターホール等にモニターを設置し、来庁者にも湧水を利用した熱利用システムで冷暖房を行っていることなどが分かる工夫が施され、市民の未利用熱利用への関心を高める効果も期待できそうです。(下写真:ECO SEED撮影)
【記者の所感】
道路融雪で山岳トンネル湧水を利用する事例はありますが、都市部における地下鉄のトンネル湧出水の熱利用は他では聞いたことがありません。東京都や大阪市、名古屋市など地下鉄が数多く走る都市では湧出水の多くは下水道へと放流され、処理されています。東京都内では一部の湧出水が都市河川の水量確保のために利用されているものの、制度上「排水」となるトンネル湧水の利用には許可等に関する関係機関の調整が難しいとされており、建物の完成という時間的制約もある中で選択しにくい状況もあると聞きます。こうした中、関係各局との調整を経て地下鉄トンネル湧水利用システムを導入した横浜市の事例は、他自治体にとっても大きな参考になりそうです。
※この記事はECO SEEDが配信する土地環境電子媒体「GeoValue」Vol.53(2018年4月2日付)より転載したものです。
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