【2025年夏特集⑥】深刻な大気汚染防止へ期待集まるモンゴル国での地中熱・太陽熱ハイブリッドヒートポンプ暖房システムを納入~ゼネラルヒートポンプ工業株式会社

◆温室効果ガスの削減とともに期待されている大気汚染物質の削減◆

ゼネラルヒートポンプ工業株式会社(名古屋市中村区名駅前2-45-14東進ビル7F 、柴芳郎代表取締役)がモンゴル国ウランバートル市で取り組んでいた地中熱・太陽熱ハイブリッドヒートポンプ暖房システムの実証設備が2025年2月に現地検査、同年3月に譲渡完了しました。新型コロナウイルスの流行やウクライナ情勢などから予定よりも大幅に遅れたものの、温室効果ガスの削減はもとより冬季暖房による大気汚染が深刻なウランバートル市において大気汚染物質を排出しない地中熱利用システムは今後、大きな関心を集めそうです。この取り組みや新たな市場としてのモンゴル国等について同社の柴芳郎代表を取材しました。(エコビジネスライター・名古屋悟)


◆地中熱・太陽熱ハイブリッドヒートポンプ暖房システム概要、効果◆


現地調査を終え、譲渡も完了した地中熱・太陽熱ハイブリッドヒートポンプ暖房システムは2020年度に公益財団法人地球環境センター(GEC)の「

地中熱・太陽熱ハイブリッドヒートポンプ暖房システムが導入されたのは、同市121番小中学校で、地中熱交換器120m×64本とハニカム型太陽熱集熱器2㎡×16枚、同社製の再エネ熱対応ヒートポンプチラー「ZQS」280kW(70kW4台)、熱源制御・遠隔監視システムZEOS/ZQ Cloudでシステムが構成されています。


121番小中学校に導入された再エネ熱対応ヒートポンプチラー「ZQS」

地中熱交換器部分はイメージ図

再エネ熱対応ヒートポンプチラー「ZQS」は2020年度新あいち想像研究開発補助金により開発し、2022年1月から販売開始したもので、従来機と比べCOPが約10~20%アップ。熱源制御・遠隔監視システムZEOS/ZQ Cloudにより、日本からも制御が可能になっています。

極寒冷地のため暖房需要が高く、太陽熱は地中の温度低下を補完する役割を担っています。

このシステムの導入により同国で普及している石炭ボイラーに比べて、CO2排出削減率は84%(年852t)及び大気汚染物質であるSO2排出量は89%の削減効果が見込まれており、冬期の深刻な大気汚染に悩んでいる同国において同システムが大きな効果を果たせる可能性が示されています。

◆平坦ではなかった道のり~事業の変更、不可抗力の事態発生で◆


しかし、「ここまでの道のりは平たんではなかったです」と同社柴代表は語ります。

同社の同国での地中熱導入への挑戦は、2016年度に遡ります。当時、同国において環境事業のコンサルティングを行っていた日本法人の相談を受け、2017年1月に独立行政法人国際協力機構(JICA)の「中小企業海外展開支援事業~案件化調査~」において「再生可能エネルギー地中熱ヒートポンプによる環境配慮型暖房システムの案件化調査」(モンゴル)が採択されたことで、同国での地中熱導入に向けた調査に乗り出したことに始まります。

案件化調査を行うことになった同国は、冬期の気温が非常に低い厳寒地で暖房を石炭に依存しています。近年では、同市に人口一極集中が起きており、石炭ボイラーから排出される煤塵による大気汚染が深刻化。慢性気管支炎や喘息、肺がん等の健康被害が大きな問題となっていることに加え、石炭燃焼によって発生するCO2の排出による地球温暖化への影響も懸念されていることから、これらの問題解決に向けて大気汚染物質削減による国民の健康被害の改善、かつCO2排出量の削減を両立できる地中熱ヒートポンプ技術の導入を進めるための調査を行うことになったとしています。

2018年1月には同市と基本合意書(MOU)を締結。

同社(代表事業者)と同市(共同事業者)の国際コンソーシアムを組み、79-1小中学校で調査を開始。熱応答試験(TRT)を実施するなどしたほか、教室の一室を機械室とし、熱交換井(ボアホール)100m×64本を設置することなど概略設計等を進めました。

しかし、案件化調査は進んだものの、JICAの普及・実証事業には2019年まで4回提案したものの採択されなかったことから、2020年公益財団法人地球環境センター(GEC)の「コ・イノベーションによる途上国向け低炭素技術創出・普及事業」への提案に切り替え、「極寒冷地モンゴル国ウランバートル市における地中熱・太陽熱ハイブリッドヒートポンプ暖房システム実証」を提案し、採択されました。

この事業は単独の技術ではなくほかの技術と組み合わせて相乗効果を求めることから地中熱ヒートポンプと太陽熱を組み合わせた地中熱・太陽熱ハイブリッドヒートポンプ暖房システムのリノベーション・実証を行うこととしていました。

それでも「ようやく実証に乗り出せると思っていましたが、予期せぬ課題が発生し、順調に進むことはできませんでした」と柴氏。

2020年度から2022年度の計画で進める予定でしたが、当初実証を行う予定だった79-1小中学校では熱電所拡張計画で熱供給を受けることになっていたことからヒートポンプシステムが不要になり、121番小中学校にサイト変更。2020年から2022年にかけての新型コロナウイルスのパンデミック、20222年からのロシア・ウクライナ戦争、同国内での汚職事件、同市内での洪水被害などの影響を受け、物資の到着遅れ、地元施工業者の力量不足など様々な課題が重なり、さらに2年間事業が遅れることになりました」と述べ、ここまでたどり着く苦労を滲ませました。


◆トラブルあったものの導入進める意義ある地域◆


しかし、ここまでトラブルなどもあって苦労したものの、大気汚染が深刻な同国では、大気汚染物質の排出抑制が急務であることや、調査を通じて同市の地質が熱伝導率の良い地質であることが分かったことなどから地中熱ヒートポンプシステムが普及する余地があるとし、同社では今後、同国内での事業化に向けて取り組む考えを示しています。

今後、建築物の設計から工事完了に至る過程の中で、環境品質やエネルギー効率を高め、必要な品質を確保するために、建築主の依頼を受けた第三者の立場から検証を行い、客観的な情報を提供するコミッショニングを行いたいと考えているほか、アジア開発銀行(ADB)の事業受託を目指して取り組んでいます。また、営業やメンテナンスを手掛ける現地法人の設立も視野に入れており、今後、具体的に進めていければと考えています」と述べており、注目されます。


◆成果も参考にモンゴル国地中熱ヒートポンプ標準も作成◆


なお、「極寒冷地モンゴル国ウランバートル市における地中熱・太陽熱ハイブリッドヒートポンプ暖房システム実証」の成果を参考に、世界銀行の「モンゴル国地中熱ヒートポンプ標準作成プロジェクト(エネ研担当)」にNPO法人地中熱利用促進協会の協力のもと、同社も助言を行うなどし、同国における地中熱ヒートポンプ標準が作成され、2023年12月29日に同国において施行されています。

同国における取り組みから中央アジアのほかの国からも相談を受けるケースが出てきているとし、今後さらに広がりを見せるかも注目です。


※記事中の図や写真はすべてゼネラルヒートポンプ工業株式会社提供

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