帯水層蓄熱冷暖房システムの社会実装に弾みつくか注目――。地中熱技術の高効率化、低コスト化を進めてきた新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「再生可能エネルギー熱利用技術開発」事業(NEDO事業)で、日本地下水開発(山形市松原777、桂木宣均社長、JGD)が2014年度から2018年度の5年間、秋田大学、産業技術総合研究所とともに国内初の「高効率帯水層蓄熱冷暖房システム」を開発しましたが、その成果を生かしたシステムが新庁舎の整備を計画している山形県河北町に採択され、注目を集めています。(写真は河北町提供データ)
河北町新庁舎建設における帯水層蓄熱システムの整備は、環境省の「2019年度再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業」に採択され、費用の3分の2の補助を受け、整備されます。新庁舎では、空調システムと融雪システムで帯水層蓄熱冷暖房システムが利用される予定で、それにより年間65㌧のCO2削減が見込まれており、完成後の運転実績が注目されるところです。
◆NEDO事業の成果…初期導入コスト21%削減、年間運用コスト31%削減◆
その「高効率帯水層蓄熱冷暖房システム」の概要をおさらいすると、融雪システムと併用することで増強された冷熱・温熱をそれぞれの帯水層に蓄え、冷暖房に有効利用するシステムで、NEDO事業で初めて実用化システムとして確立されたものです。夏に冷房利用で温まった地下水を注水した帯水層を冬の暖房で、冬に暖房利用で冷えた地下水を注水した帯水層を夏の冷房にそれぞれ使うことで、大幅な省エネ効果を発揮することが期待されています。
従来は開放式の井戸を利用するのが一般的でしたが、熱利用後の地下水を帯水層に注入するのが困難となる課題が生じるほか、井戸の維持管理のために行う逆洗運転などが運用コストアップの一因となっていました。そうした課題に対応するためNEDO事業では「密閉式井戸」を開発。課題をクリアし、100%注入を可能にしました。効率的に帯水層へ注水できるようになったことで、従来は3本必要だった井戸を2本に減らすことも可能となり、その分の工費削減にもつながっています。
NEDO事業では山形市内のJGDの関連会社事務所建屋の空調に導入して実証。5年間の実証の結果、初期導入コストを21%、1年間の運用コストを31%それぞれ削減できる見込みとしてNEDOが最終的に公表しています。
その技術開発の成果がただちに地方自治体の実機として採択された点が特筆すべき点です。「膨大な実証データの解析とそれに基づく技術開発等による成果の信頼度の高さが評価されたもの思っています」とJGDの桂木聖彦専務は分析しています。
また、河北町での採択では、産総研が作成した山形盆地における地中熱利用ポテンシャルマップの存在もクローズアップしなければなりません。ポテンシャルマップに新庁舎予定地を重ねると適地であることが予測されました。その予測も採択を後押しする材料となったと桂木氏は振り返ります。なお、2018年度に予定地で実施した地下水調査の結果、ポテンシャルマップで予測された値とほぼ変わらない結果が得られたと言います。このことは、実際の導入に向けてポテンシャルマップが施主等の最初の検討材料として有効であることを裏付けた事例とも言えます。
河北町での採用決定で今後、他地域での導入促進にも弾みがつきそうですが、地下水は地域によって水質が大きく異なるため、「実証の結果だけで全国一律で期待通りのシステムが作れるとは言えません。河北町新庁舎での実運転データ等を積み重ね、高効率稼働による省エネルギーを実現し、さらに精度の高いシステムにしていきたいと思っています」と述べており、今後の高効率帯水層蓄熱冷暖房システムの普及の動向がさらに注目されます。
※この記事は土地環境電子媒体「Geo Value」Vol.92(2020年1月27日)に掲載されたものを転載しました。
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