地中熱を利用したオリーブ栽培で耕作放棄地の有効活用を――。「石川県立大学と実現する SDGsビジネス」をテーマとした「令和4年度石川県立大学シーズ研究発表会」がこのほど開かれ、同大学環境科学科の百瀬年彦准教授が、「地中熱を利用したオリーブ栽培で空き地と耕作放棄地を有効活用」について発表しました。
この研究は、国内のオリーブ産地である香川県の小豆島が1本あたり2~3㎏なのに対し、能登島は同400gと少ないことから同県能登島のオリーブ栽培農家の相談で始まったもの。
日本海側で冬期の気温が低い能登島で収量を増やすため、学生が主体となって研究を開始。樹木の生育に冬の地温が与える影響は大きいことから、根域を温めることを方法に着目。
根域の地温が冬季でも8℃ある小豆島に対し、能登島は2℃にまで下がるため、根域の地温を小豆島と同程度まで上げ、生育環境を整えることとし、冬期の能登島でも11℃程度ある深さ2mの地温の利用を検討したとしています。
深さ2mの熱を根域に影響させるため、すでに融雪等で利用されているヒートパイプに着目。真空状態のパイプ内に作動液を封入したヒートパイプは、動力を使わずに済む点でも農業における生産コスト面で有利であることから、オリーブ栽培用のヒートパイプ(外形2,5㎝、長さ2m、作動液HFC)を作成。
直管型と直管型にサブパイプを取り付け根の周りに熱を広げる放射型を作成し、2021年に羽咋市内の耕作放棄地で実証を開始。冬季の状況を見ると、根回りの地温が無加温で2℃を下回る状況下、直管は5度程度、放射型は根回りも含めて4度程度まで温められることが分かったほか、翌年6月に幹や根を調べたところ、放射型で実証した樹木では幹や枝の数が多く、枝の長さも長いなど生育が促進されることを確認したとしています。
このヒートパイプ式地中熱利用型オリーブ栽培については、ビジネスプランコンテスト等でも評価を受け、賞を受賞しているとのことです。
実証などを踏まえ、設置等における注意点や特徴については、既に植えられた樹木への適用は根を傷つける可能性があるので、新たに樹木を植える際に設置しなければならない点、根域の加温には直管型を複数本埋設した方が効率はいいが、ヒートパイプは杭打機で埋設するため、1本で済む放射型の方が作業が容易で低コストである点(複数本を低コストで埋設できる技術を持つ企業があれば直管型複数本でも良いとのこと)などを挙げています。
なお、国産のオリーブは200mlで5,000円。国産ツバキ油が同3,000円、国産はちみつが同1,500円であることと比べても収益性が高い作物で、空き地や耕作放棄地を利用した作物栽培で注目されており、同大学の研究成果が寒冷地域でのオリーブ栽培での活用が期待されます。
※同発表会は対面での開催は3年ぶり。会場、オンライン合計で100名超が参加し、これまでの開催で最多の参加人数になったとしています。
※この記事はECO SEEDが発行する地中熱利用等の電子専門紙「Geo Value」Vol.156(2022年9月26日発行)に掲載したものです。
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