【2023年夏特集】②陸上養殖の水温管理に海外で実証した未利用熱利用システムを

◆ベトナムの鶏肉加工工場で実証した冷廃水の熱利用◆


ベトナムで実証した工業用水中の未利用熱の有効活用によるクリーン冷暖房システムを今後、陸上養殖など多様な用途で展開していきたいと思っています――。

ベトナムでの実証実験を行ってきたアサノ大成基礎エンジニアリング(東京都台東区北上野2-8-7、遠藤一郎社長)の志賀剛国際推進室長はこう語ります。

「ベトナムにおける工業用水中の未利用熱の有効活用によるクリーン冷暖房システム」は、2021年5月にアジア開発銀行の高度技術信託基金の技術イノベーション実証試験プロジェクトに採択されたもの。

ジオシステム(東京都練馬区関町北3-39-17、高杉真司社長)ほか3社と連携し、ベトナムでの樹脂製熱交換器(タンク式G-HEX)を活用した未利用熱の有効利用システムを用いた技術。


◆従来冷却システムに比べ約20%のエネルギー使用量削減◆


鶏肉加工工場では、工業用水を使って温水、冷水を作って工場内で利用しており、従来、温水はボイラーで80℃ほどに加温、冷水はチラーで0℃近くに冷却して使用していましたが、工業用水の水温は25℃~30℃近くあり、冷水を作るのに年間で日本円にして500万円ほどかかっていました。

この実証試験では、冷廃水に着目。チラーで冷却した水は鶏肉の洗浄等に使用され、そのまま廃水となっていましたが、廃水時もまだ3℃程の冷水であり、この冷廃水を工業用水の冷却に熱源として再利用することで冷却時のコスト低減を図る考えの下、冷廃水をタンクに貯め、その中に沈めた「G-HEX」で冷熱を回収し、循環水をプレート式熱交換器に送り、プレート式熱交換器で冷やされた工業用水をチラーで冷却します。

鶏肉加工工場での一年間の実証の結果、チラーのみで冷水を作るのに比べ、約20%の電力使用量の削減となり、冷廃水を熱源とするシステムの導入費は約5年で回収できる見通しとなっており、初期投資回収が早くできる点が魅力的です。


◆樹脂製熱交換ユニットの「G-HEX」で冷廃水の熱を回収◆


このシステムで使われる「G-HEX」は、地中熱利用等で使われているポリエチレン製シート状熱交換器「G-カーペット」を利用したユニットで、タンク式やバスケット型、平板型等のユニット仕様にしたもの。「G-カーペット」は、幅0.9m× 長さ5.6mの。径6mmのポリエチレン管117本と2本のヘッダーで構成されているもので、地中熱利用等では深さ1~2mの浅層での熱交換に適しています。コンパクト、軽量、モジュール化で設置が容易で、地表水(池、川)での利用で1枚当たり6kW相当(カタログ値)の熱交換が可能となっています。

ベトナムでの実証では冷廃水に「G-HEX 」を沈めることから汚れ等の付着による熱交換効率の低下が懸念されますが、年間の実証では汚れによる能力の低下はほとんどなかったとしています。仮に汚れが付着しても「G-HEX」を廃水槽から出し、清掃するのは難しいものではないので、メンテナンス等の負担は少なくて済むのも大きなポイントとなります。

アサノ大成基礎エンジニアリングの志賀氏は、熱利用後の冷廃水にも注目しており、熱回収後も8度程度の水温であることから室内の冷房熱源としての利用も視野に入れています。

また、さらに大きな規模での運用も予定しており、研究機関と連携し、今後、実証を行っていきたいとしています。


◆注目されている陸上養殖の水温調節に展開を◆


さらに、この「ベトナムにおける工業用水中の未利用熱の有効活用によるクリーン冷暖房システム」は水産加工工場や、注目されている陸上養殖における導入も視野に入れ、関係方面との調整も進めていると言います。

陸上養殖ではエビやトラフグ、アワビ等の高級水産物の養殖が注目されていますが、水温管理も重要なポイントとなります。

この水温調節に地中熱や廃水等の未利用熱を利用することで加温も冷却も低コスト化が見込まれるほか、地中熱利用の業界では昨今、地中熱等の高度利用に関する研究の動きも出てきており、陸上養殖における地中熱、未利用熱利用の動向が注目されそうです。


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