【2024夏】④寒冷地で温泉廃水の未利用熱を活かして世界三大美果「チェリモヤ」の栽培を~日さく

◆単価高い果物のハウス栽培視野に青森県深浦町で温泉廃水の熱利用の実証実験◆

◆2年間の試験で冬期に必要な温度の確保を確認◆

寒冷地で温泉廃水の未利用熱を活かして世界三大美果「チェリモヤ」の栽培を――。株式会社日さく(さいたま市大宮区桜木町4-199-3、若林直樹社長)は、国立大学法人弘前大学地域戦略研究所新エネルギー研究部門の若狭幸助教ら研究チーム、ジオシステム株式会社(東京都練馬区関町北3-39-17、高杉真司社長)と共同で実証実験「高効率の熱交換器を利用した温泉廃熱の農業利用の試み」を青森県深浦町で実施し、温暖な環境が必要な「チェリモヤ」の栽培に向けて冬でも必要な温度を確保できたことを確認したとしており、同地域における「チェリモヤ」栽培に弾みがつくか注目されます。

「チェリモヤ」は南米原産の果物で、「森のアイスクリーム」と呼ばれる高級果物で、栽培適合温度は15~30℃。日本国内での栽培では、冬季の暖房がカギとなり、この試験では「チェリモヤ」を栽培するのに必要な冬季の室内温度5℃以上を目指して試験が行われています。


◆冬期(11月~2月)の加温のみでヒートポンプも不要◆


2022年度から2023年度にかけて実施した実証実験では、青森県深浦町の既設源泉を利用し、源泉から自噴している未利用の温泉廃水を温泉貯留槽に貯め、そこから採熱し、付加価値の高い農作物「チェリモヤ」の冬期栽培に向けて必要な温度を確保できるかを確認。

熱の需要は冬期の加温のみであり、そもそも水温の高い温泉水を利用するため、ヒートポンプを使わないシステムになっている点が特徴。

加温する実証実験施設は、面積5.6m2の半球状のドーム型温室。

熱交換器には、ポリエチレン製の熱交換シート(商品名:G-HEX)を筒状に丸めたものを採熱・放熱で使用。

採熱部分は常時温泉水の流れがあり、採熱効果がより得られるようになっています。

一方、放熱部分は植物の葉の部分を温めるように熱交換シートを屏風状に立てるように設置しています。

この加温システムの実証は、冬期(11月から2月)のみ実施。

温泉温度50.6℃(温泉流量200L/min)で、2022年11月からデータを採取し始め、採熱側の循環流量12L/minで採熱側の入口と出口の温度差は約2.9℃程度となり、放熱側(室内側)の温度は目標である室内温度5℃以上をおおむね確保することができたとしています。


◆熱交換シート付着の温泉スケールの除去、能力回復も確認◆


採熱側で運転後期に採熱温度差の低下が見られたものの、これは採熱器への温泉スケールの付着が原因と考えられ、定期的に高圧洗浄をかけるなどすることで採熱能力が回復することも確認しています。


◆温泉熱で得られた熱をボイラー換算するとA重油年間5万7,600円分◆


日さく株式会社の高橋直人氏によると、「今回の実証実験では、施設での放熱器からの熱放出量は約2.0 kWと試算。化石燃料の燃焼に換算した場合、5,760 kWh/年となり、これをA重油の量に換算すると576 Lとなります。コスト面で見ると、A重油の単価を100円/Lとするとボイラーを用いて暖房した場合のコストは年間5万7,600円となります」とし、この温泉熱を利用すれば通常のボイラーでかかる燃料代等よりもランニングコストの面で有利になる可能性を示唆しています。


◆CO2排出量年間1,540㎏分の抑制にも◆


また、温室効果ガスの排出についても「(A重油)であった場合、CO2排出量は年間1,540kgとなります」とし、温泉熱によるシステムを利用することで温室効果ガスの排出抑制にもつながる可能性を示唆しています。

今回の実証実験は、「チェリモヤ」栽培に必要な室温がキープできるかを確認するものであり、「チェリモヤ」自体の結実等までは至っていませんが、「チェリモヤ」の販売価格は1個あたり安価でも5,000円を超えるものであり、今回の試験が高付加価値作物の生産の第一歩となることに期待が集まっています。


※記事中の図や写真は、(株)日さくより提供いただいたものです。

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