◆未利用温泉熱で必要な温度確保可能を確認◆
温泉廃水の未利用熱で寒冷地の冬期でも南米原産高級果実栽培に必要な温度が確保できることが分かりました――。こう語るのは、株式会社日さく(さいたま市大宮区桜木町4-199-3、若林直樹社長)技術開発本部の高橋直人氏です。
同社では2022年度から2023年度にかけて国立大学法人弘前大学地域戦略研究所新エネルギー研究部門の若狭幸助教ら研究チーム、ジオシステム株式会社(東京都練馬区関町北3-39-17、高杉真司社長)と共同で「高効率の熱交換器を利用した温泉廃熱の農業利用の試み」に取り組みました。実証実験では、青森県深浦町の既設源泉を利用し、源泉から自噴している未利用の温泉廃水を利用して、「森のアイスクリーム」と呼ばれる南米原産の高級果物「チェリモヤ」の栽培の可能性を探っています。
◆世界三大美果「チェリモヤ」◆
深浦町での栽培を視野に入れて実証実験が行われた果物「チェリモヤ」は、南米原産の果物で、「マンゴー」、「マンゴスチン」と並ぶ世界三大美果の1つとして数えられているものです。白く、ねっとりとしたクリーミーな食感で甘みが強いことから「森のアイスクリーム」とも呼ばれています。「チェリモヤ」の販売価格は1個あたり安価でも5,000円を超える高付加価値商品であり、生産技術が確立できれば新たな地域の名産品となる可能性を秘めています。
南米でも高地に分布する「チェリモヤ」の栽培適合温度は15~30℃とされており、日本国内での栽培では冬季の暖房がポイント。実証実験では「チェリモヤ」を栽培するのに必要な冬季の室内温度5℃以上を目指して試験が行われました。
◆ヒートポンプ使わずに冬期(11月~2月)の加温性能を確認◆
使用した熱源は、青森県深浦町の既設温泉の自噴している未利用の温泉廃水。
温泉廃水を温泉貯留槽に貯め、そこから採熱する形で、熱交換器にはポリエチレン製の熱交換シート(商品名:G-HEX)を筒状に丸めたものを採熱・放熱で使用しています。
採熱部分は常時温泉水の流れがあり、採熱効果がより得られるようになっています。一方、放熱部分は植物の葉の部分を温めるように熱交換シートを屏風状に立てるように設置しています。
加温する実証実験施設は実際の栽培ハウスを想定し、面積5.6m2の半球状のドーム型温室で、冬期での「チェリモヤ」栽培に必要な温度を確保できるかを2年間確認しています。冬季の加温のみ必要なため、加温システムの実証は冬期(11月~2月)にのみ実施したとしています。水温の高い温泉水を利用するため、ヒートポンプを使わないシステムになっている点も特徴になっています。
具体的な実証の内容を見ると、温泉温度はおおむね50.6℃(温泉流量200L/min)で、2022年11月からデータを採取し計測した結果、「採熱側の循環流量12L/minで採熱側の入口と出口の温度差は約2.9℃程度となり、放熱側(室内側)の温度は目標である室内温度5℃以上をおおむね確保することができました」としています。
なお、実証実験では採熱側で運転後期に採熱温度差の低下が見られましたが、「これは採熱器への温泉スケールの付着が原因と考えられ、定期的に高圧洗浄をかけたりすることで採熱能力が回復することも確認しています」と高橋氏は述べています。
◆ボイラー換算A重油年間5万7,600円分削減、CO2排出量年間1,540㎏分の抑制も◆
これらの結果から、施設での放熱器からの熱放出量は約2.0 kWと試算されています。
これを化石燃料の燃焼に換算した場合、5,760 kWh/年となり、A重油の量に換算すると576 Lとなり、「コスト面で見ると、A重油の単価を100円/Lとするとボイラーを用いて暖房した場合のコストは年間5万7,600円となります」とし、この温泉熱を利用すれば通常のボイラーでかかる燃料代等よりもランニングコストの面で有利になる可能性が示唆されています。
環境性能の面でも、A重油だとCO2排出量は年間1,540kgとなりますが、温泉廃水の場合は排出量が限りなくゼロになるため、温泉熱システムを利用することで温室効果ガスの排出抑制にもつながります。
同社が担当するのは温泉熱の部分で「チェリモヤ」栽培に必要な室温を維持できるかを確認するもので、「チェリモヤ」自体の結実等までは至っていませんが、共同で実施している弘前大学では別途、太陽光発電システムを利用したIoT技術による遠隔管理に関しても実証が進められています。
温泉廃水の未利用熱など地域資源を生かして寒冷地での「チェリモヤ」栽培が確立できるのか、今後も注目を集めそうです。
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